デジタル化で銀行はどのように変わるのか?
─ 活動方針の中でも触れていましたが、改めて銀行界としてデジタル化にはどう向き合っていきますか。
半沢 非常にわかりやすい例で言えば、銀行における事務プロセス、業務プロセスは、間違いなくデジタル化によって強靭かつ効率的なものにできますし、していかなくてはいけないと思っています。
また、お客さまとの接点においても、デジタルを活用した接点のあり方と、対面のあり方とを峻別していかなければいけないと考えています。
手続きなどについては、事実上ネットで完結してしまうと。逆に言うと、選択肢がないものについては、我々が使い勝手を向上させることによって、お客さま自らこなしていってもらうということだと思うんです。
一方で対面においては、お客さまのご相談に応じるような形で、選択肢があるものについて様々な提案をさせていただきながら、お客さまとの接点を確保していくことになります。お客さまのニーズに応じて、接点のあり方を変えていかなくてはならないということだと思います。
─ 金融インフラ自体のデジタル化についての考えは?
半沢 我々が抱えている金融インフラも、デジタル活用が必要になっています。これまで、我々が投資してきたインフラを、例えば資金移動業者にも開放して、銀行界との相互運用が確保されるような、もっと大きなインフラに変えていくことも必要になるでしょう。
また、領域をまたぐ部分において、従来の全銀システムを使うものもあるでしょうし、先程お話した「ことら」を使うような形で、小口のものについてはより簡便で低コストのインフラを提案していくといった形で、デジタル技術の活用で、様々な接点のあり方をお客さまに提案していくことが大事です。
従来、我々は安心・安全に金融システムを維持・提供してきましたが、それに加えて、デジタル技術を活用することで利便性を実現できるようになりました。以前は安心・安全と利便性は相反するように見えていましたが、今は両立できるわけですから、それをどう生かしていくかということだと思います。
─ 三菱UFJ銀行を始め、近年、各銀行が異業種と提携するなど、金融と他産業の垣根が下がってきていますね。
半沢 我々はこれまで金融の世界で金融サービス行の範囲を広げてきたわけですが、今回はお客さまサイドから、非金融も含めたサービスをワンストップで実現して欲しいというニーズが出てきています。
それを実現できるような形で今回、銀行法も改正していただき、非金融も含めたサービスを提供できるようになりましたから、フィールドは大きく変わっています。この状況を個別銀行として、どのように生かし切るかということだと思っています。
例えば三菱UFJ銀行で言えば、2021年に非金融サービスである経営支援システムを提案できる「ビジネステック」という会社を子会社化しました。
これで、主に中堅・中小のお客さまに対して、決済や人事労務、マーケティングのデジタル化支援や、気候変動対策の支援をさせていただくサービスを提案できるようになりました。このようにお客さまのニーズを踏まえるような形でフィールドを拡大していますから、今後は各銀行が、いかに独創的な提案ができるかが戦略的な競争力の差になっていくのだと思います。
─ 将来において、銀行はどのような存在になっていると考えていますか。
半沢 先程お話したように、従来は金融サービスを安心・安全に提案・提供する存在でした。これからは安心・安全であると同時に、利便性高くサービスを提供できるようになっています。ですから銀行は「サービス業」になっていくと思っています。
この時の利便性の中には「いつでもどこでも」という要素が加わってくると思います。安心・安全は土台であり、揺るがない私どもの普遍的な役割だと思いますが、デジタル技術を活用することで「金融サービス」から、「サービス業」に進化していくのではないかと思っています。
─ 業界内の人の考え方も大きく変わる必要がありますね。
半沢 サービス業に進化する時に、金融サービスをやってきた我々の中には、そうした視点を持った人はいません。ですから中途採用を拡大したり、様々な会社と提携するといった選択肢が増えていくと思います。
そしてこれは我々金融だけでなく、おそらく産業界全体がそうだと思うんです。従来の業界・業種の垣根が崩れ、それを越えていく時には、従来の知見やノウハウだけでは対応できませんから、提携や買収が必要になってくるのだと思います。
はんざわ・じゅんいち
1965年1月埼玉県生まれ。88年東京大学経済学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。2014年三菱東京UFJ銀行執行役員、18年三菱UFJ銀行常務執行役員、19年取締役常務執行役員、21年4月代表取締役頭取に就任。