2022-07-29

【創業114年の刃物の老舗】貝印はなぜ、年間600点の新製品を世に送り出せるのか?

遠藤宏治・貝印会長兼CEO



包丁ブランド「旬」が欧米を中心に人気に


 ─ 時代の流れの中を生き抜いてこられたということですね。近年はSDGs(持続可能な開発目標)などの流れもありますが、どう意識していますか。

 遠藤 当社では今から30年近く前に、植物を原料に使用したエコ剃刀を発売しました。この時は材料費が高く、その分、販売価格も高かったため、お客様に受け入れてもらうことができませんでしたが、地道に続けてきたのです。

 2021年には、通常プラスチックが使われる持ち手部分に厚手の紙を使用した、世界初の「紙カミソリⓇ」を発売しました。ディスポからスタートした会社ゆえに、環境を意識した製品をつくっていこうというスピリッツは、ずっと持ち続けていこうと考えています。

 ─ 日本刀など、日本の刃物は世界的にも評価されていますね。これも貝印の事業に影響していますか。

 遠藤 お陰様で2000年に発売した「旬」という包丁ブランドが欧米を中心に全世界的に売れており、間もなく累計1000万丁に到達します。

 ─ 欧米で受けた理由をどう分析していますか。

 遠藤 世界的な和食ブームと、発売当時に『ラストサムライ』という映画がヒットして日本イメージが向上したこと、あとは「旬」というネーミングやデザインもよかったのだと思います。

 ─ 全売り上げに占める海外比率はどのくらいですか。

 遠藤 約50%です。現在は欧米が中心ですが、今後はアジア市場にも注力していきたいと考えています。

 ─ 全産業界的にデジタル化が進んでいますが、「人」との関係をどう考えますか。

 遠藤 刃物は最終的に切れ味が命ですから、それを出すのは熱処理工程、プレス工程などのデジタル化に加えて、最終的な最大価値はやはり「人」です。

 我々の工場で「匠」の技術をどうやって保持していくかというのは、これまでも、これからも大きなテーマです。

 ─ 人材育成において気をつけていることは?

 遠藤 我々はファミリー企業ですが、社員もある意味で家族のような形で育成していく意識を持ち続けることが重要だと考えています。我々くらいのサイズの企業であれば、社員のことはある程度わかります。このスタイルは今後も堅持していきたいと思います。

 家族経営と言いながらも、あまりウェットではなく、ある程度の距離を持つというのが私の理想ですが、マネジメントとしては、様々な心配りをして、社員が生き生きと働くことができるような環境をつくっていこうと考えています。

 会社では「週報制度」という、週に1回、社員が気づいたこと、思ったことを実名でイントラネットに書き込むという制度があります。多い時で100通を越える書き込みがあるんです。始めてから10年近く経ちますが、読んでいると社員が何を感じながら仕事をしているのかなど、いろいろな気づきがあります。

 ─ 経営者と社員で意識を共有できると。

 遠藤 ええ。ただ、社員にはそれぞれ価値観、考え方がありますから、こちらから「こうしなさい」といったことは言わないようにしています。

 我々は「場づくり」をして、その中から、会社としてどう対応していくのかを汲み取っていく。その仕組みづくりを一生懸命やっているつもりです。


えんどう・こうじ
1955年10月岐阜県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業、79年ロヨラ・メリーマウント大学大学院修了。80年三和刃物(現・貝印)入社。同年から2年間コクヨ出向。86年常務取締役、89年取締役副社長、同年代表取締役社長、21年55月代表取締役会長兼CEOに就任。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事