2022-08-02

【創業100年】旭化成・工藤幸四郎社長は「3領域経営」のシナジーをどう出していくのか?

工藤幸四郎・旭化成社長



3領域間のシナジーをいかに発揮するか


 ─ 事業を担う「人」の育成、活用をどう進めていこうと。

 工藤 当社では人材を「人財」と呼びますが、この中計を進めていく上で、やはり人財を強くしていかなくてはいけません。事業が3領域ありますから、現段階でも多様な人財が活躍していますが、今後さらに多様な人財の登用を推進していきます。社内の人財をどう育成していくかということは、企業の生命線に近いくらい重要なことであり、企業は多様な人財で構成されているがゆえに強くなっていくと考えています。

 また、経営基盤の代表例として、DX(デジタルトランスフォーメーション)と知財があります。これも、人財育成とともに、当社が広い領域で事業展開していることが活きる分野です。

 幅広いデータが集まってきますし、様々なビジネスモデルの提案をすることもできます。ですから我々の経営基盤は、さらに強固になるポテンシャリティを持っていると言えます。

 ─ この3領域間の連携についてはどう考えていますか。

 工藤 ビジネスシナジーは確かに重要ですが、一方で極めて難しい課題です。

 これまで我々は、それぞれの領域を成長させることを重視してきました。そして、そのために他の領域から必要なことを学ぶ、という考え方で取り組んできました。

 ただ、ソニーグループさんがホンダさんと電気自動車(EV)で提携したように、産業間の垣根が低くなってきています。従って、事業間を越えたシナジーは、まさに時代の変革の中で非常に重要性を帯びてきています。

 例えば、我々の中には住宅という「居住空間」を扱う事業があります。一方で強化している自動車関連ビジネスにおいて、自動車の中は「車室空間」があります。

 この「空間」の快適性をいかに維持していくか、あるいは健康につながるようにしていくかを考えていくと、我々の事業間のシナジーが出てきますし、新たなビジネスチャンスも大きく出てくるだろうと。

 そしてこれは、短期というよりも、中長期テーマとして取り組んでいます。ですから投資家の皆さんには、短期で利益をどう上げていくかということと、中長期でどう成長していくかということの両側面を訴えていきたいと考えています。

専門性の高い人財を積極的に登用


 ─ 近年は、日本が進めてきた「メンバーシップ型経営」だけでなく、「ジョブ型経営」を採用する企業が出始めており、人材の流動化も進んでいます。旭化成としては、どう対応していますか。

 工藤 最近はキャリアにもいろいろあり、旭化成を辞めて他社で働いて、また入社してくる人財もいます。

 昔気質の人に話をすると「いかがなものか」という人もいますが(笑)、ただ、今は他社で働くというのは、非常に貴重な経験と言えます。

 しかも、また旭化成で働きたいと思うということは、旭化成に愛着を持っているがゆえに帰ってくるのです。そのことを前向きに捉えて、そういう社員、人財を否定せずに採用し登用していけたらと思っています。

 ─ 出入り自由だということですね。ただ、その場合には人の能力をどう評価し、報酬などでどう処遇するかという課題も出てくると思います。

 工藤 優秀な人財に対して、ある合理性を持ってしっかりした報酬を渡せているのかという課題です。

 優秀な人財をどう処遇するかという問題については、以前の旭化成であれば、なかなか処遇しづらい状況がありました。この場合の優秀な人財というのは、マネージメント人財と、専門性を持った人財とに分けられます。

 非常にマネージメント力が高い、あるいは組織を引っ張ることができる人財は、昔から自動的に出世していくわけです。そうして、徐々も大きな組織を持たせていき、そこに処遇が付いてくるのです。ですから、この分野はこれまでのやり方を、いかに進化させるかということです。

 変革すべき点として最も重要なのは、専門性の高い人財がどう処遇されているかということです。これについては「高度専門職制度」を設けて、高度専門職人財を、かなり多く登用しようとしています。

 ─ 会社の中で、これまでとは違うキャリアを歩む人達が出てきますね。

 工藤 そうです。今の若い社員は会社に入ってからの自分のキャリアプランを真剣に考えています。ですから複数の職種、職場を経験させて、上司も協力しながら、自分が進むべき道を見つけ出してもらう。

 その中で専門性を身に付けてもらって、自分はこういう分野に行く、あるいは別の分野に行くといったことを30代半ばくらいに決めていく。

 基本は、専門性の高い人財を創出していって、その中で「エキスパート」、「リードエキスパート」、「プリンシパルエキスパート」というランク付けをしています。これは今後、もう少し細分化する必要があるかもしれません。

 また、そうした人財については、素晴らしい実績を残したということで任命するにとどまらず、ミッションを与え、その成果に対して処遇するといった期待要件の部分をより重視していくことも考えています。

 いずれにせよ、トライアンドエラーを繰り返しながら、どういう人事制度、システムがいいのかを考えていきたいと思います。同時に、専門性を追求する中で、マネージメント能力が優れた人財も見出だせます。そういった人財には、本人とも相談しながら、組織の長として育てていこうと考えています。

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