2022-07-22

ヤマダHD・山田昇の『暮らしまるごと戦略』シナジー効果が出せる経営形態を!

ヤマダHD会長兼社長CEO 山田 昇氏

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市場が一巡すると、とかく価格競争に陥り、疲弊しがち。この愚を避けるにはどうするか─という問題意識から、ヤマダホールディングス会長兼社長・山田昇氏が掲げるのが『暮らしまるごと』戦略。「家電販売は10年スパンで見れば、シュリンクしている。だからこそ、将来を見通した改革に取り組んできた」と山田氏は語る。家電と親和性の高い住宅・インテリアをはじめ、金融サービス、環境といった新領域を開拓。「それらのシナジー効果を出していきたい」と新成長戦略を描く。1973年(昭和48年)30歳のとき、個人の電機店からスタートした山田氏は、半世紀に渡る経営者人生の中で、「小売業のチェーン展開には必ず壁が現われる。それをどう乗り越えるかが課題」という認識を示す。経済全体が混沌とする中での成長戦略とは―。
本誌主幹
文=村田 博文

<画像>まったく新しいヤマダ!暮らし全体を支援する新コンセプト店舗『LIFE SELECT(ライフセレクト)』

家電販売専業から『暮らしまるごと』へ脱皮

 マクロ経済全体が縮小する中で、企業はいかにして成長していくか─という命題。
 家電量販店トップのヤマダデンキを抱えるヤマダホールディングス会長兼社長CEO(最高経営責任者)・山田昇氏は今、住宅・リフォームの新領域に注力。さらには金融サービス、リサイクルなどの環境関連分野も手がける。

〝暮らしまるごと〟─。「家電との親和性が高い」ということで、住宅・リフォームやインテリア・生活雑貨分野を手がけ、また消費者の購買を手助けする決済などの金融サービスまで文字通り、サービスをまるごと提供する。
 それを山田氏は「暮らしまるごと」戦略と呼ぶ。そしてこの10年間、その戦略の進化を図ってきた。

 住宅メーカーの『エス・バイ・エル』を買収して連結子会社にしたのが2011年(平成23年)のこと。住宅や家具・インテリアへの注力は年々高まり、2019年(令和元年)に大塚家具を、そして2020年(令和2年)には木造住宅で定評のあるヒノキヤグループを傘下に取り入れた。
 住宅分野への進出の足がかりとして、エス・バイ・エルを買収して、10年余。この間を振り返って、山田氏が語る。

「時代の変化があると。特に高齢化社会で人口減です。そしてこの業界はデジタル化だとか、ネット時代に入るなど劇的な変化が起きています。これに対して、どうするかという考えの下で生み出した事業コンセプトが『暮らしまるごと』なんです」
 山田氏は新業態の開拓を進めてきた理由についてこう述べ、「10年経って、ほぼ基盤ができてきた」とその手応えを語る。

 この10年間は経営の新業態を確立するまでの〝試行〟の日々と言っていい。旧来型の店舗の新規出店ペースを抑え、従来の家電と共に住宅・インテリアや生活雑貨なども扱う新しい店舗形態を同社は開拓してきた。
 消費者にとって、暮らしの拠点は家(自宅)。その家を建てれば、必ず家電は求められるし、家具・インテリアやさらには生活雑貨も必要になってくる。
 また、リフォーム(改築、修理)の需要もあるし、環境関連のニーズも生まれる。

 そうした需要に応えるため、同社は家電から住宅・リフォーム、インテリアから生活雑貨まで暮らし全体を支援する新コンセプト店舗『LIFE SELECT(ライフセレクト)』を開拓。
 同社の主要子会社『ヤマダデンキ』は、北は北海道から南は沖縄まで978の店舗網を持つ。

 この『LIFE SELECT(ライフセレクト)』店はすでに21店を展開している。例えば、神奈川県茅ケ崎市に2021年11月、家具・インテリア、雑貨を揃えた大型店を開店。逐次この新業態店舗を拡大していく方針。

山田氏の経営観は、時代の変化にしっかり対応していくということ。

 ヤマダホールディングスは2025年3月期までの中期経営計画を立て、その中で、この新事業コンセプトの具体化を打ち出している。
 新中期経営計画の柱は3つ。まず茅ケ崎市のような『LIFESELECT』出店を推進。併せて既存店の機能見直しを行い、最適な店舗配置を進める。

 2つ目は電子商取引(EC)の強化。この分野ではネット通販大手との競争も激しくなることが予想されるが、同社の強みは使用済み家電の下取りをやっていること。また家庭やオフィスでの商品の設置の相談に対応できる専門の社員を抱えているのも強み。
 こうした強みを生かし、ネット通販大手との違いを消費者にアピールしていく方針。

 3つ目がSPA(製造小売業)の機能を強化していくこと。
 家電販売専業ではなく、『暮らしまるごと』戦略を着実に実行していくためには、このSPA機能の強化が不可欠という山田氏の考え。

 消費者の暮らしのすべてに関わる企業として、家電だけではなく、住設機器やインテリア、生活雑貨でも自社ブランドを企画開発し、生産する体制にしていくということである。

 前述のように、同社はこの10年余、急ピッチで経営改革を行い、M&A(合併・吸収)にも積極的に関わってきた。
 2020年10月、持株会社制に移行し、ヤマダホールディングスを持株会社とし、ヤマダデンキを筆頭に子会社群を擁する形態を取った。

 こうした経営改革を果敢に実行する理由について、山田氏が語る。
「われわれがデンキセグメント(電機領域)と呼んでいるデンキ業界は10年スパンで見れば、少し萎縮しているんですよ。だからこそ、当社は将来を見越した改革に取り組んできた」

 山田氏はこう改革の動機を述べ、次のように続ける。
「要は、あくまでも家電専門店としての事業領域をいかに広げるか、新事業領域も親和性の高い取り組みなんですよ。対象のお客様は同じお客様じゃないですか。個人じゃなくて家族。そういうことで、衣食住の住の家電を中心にやっていこうと。そうすると、事業の幅が広がる。こういう考えです」

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本誌主幹 村田博文

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