2022-08-11

生命保険協会会長・稲垣精二氏に直撃!先行き不透明の中、生命保険会社が果たすべき役割は?

稲垣精二・生命保険協会長(第一生命保険社長)



資産寿命より寿命が長くなることで起きること


 ─ 足元でロシアによるウクライナ侵攻が発生し、米国の金融政策の変更もあって経済環境が混沌としています。現状をどう見ていますか。

 稲垣 やはり戦争は想定してはいませんでした。それに伴うインフレ、金利の上昇は、我々の想定を越えるものでした。

 為替の円安自体は、我々は基本的に負債は円で、資産運用は分散投資で外貨建てもしていますから、円安でリターンが上がる部分はプラスに出る一方、金融引き締めで世界景気が減速すると、成長率の下方修正でマイナスが出てきてしまいます。現時点で円安、金利上昇をフェアに評価するのは時期尚早ではないかと思っています。

 ただ、非常に不安定な状況にあることは事実ですから、政策当局には物価の安定、経済の安定成長に向けて対応を図っていただきたいと願っています。

 ─ 為替の円安は人々の生活を圧迫するレベルです。

 稲垣 輸入物価の上昇に反映され、足元でエネルギーや生鮮食品の価格が上がっています。これは社会構造の中で弱い立場におられる方々にヒットしますから、非常に難しい問題です。

 我々、第一生命にご加入いただいている方の多くは、一般的な国民の方々ですから、そうした方々が苦しんでおられることについては、非常に悩ましいことだと思っています。

 ─ 政府が「資産所得倍増」を掲げていますが、国民にとって資産形成は、安心・安全を考える上で非常に重要なものになっていますね。

 稲垣 我々は個人年金という形で、長年資産形成に貢献させていただいていますが、日本では低金利の中において、あまり魅力的な個人年金商品のご提供ができていなかったかもしれません。

 ただ「人生100年時代」の中で、資産寿命より寿命が長くなってしまって、お客様の「資産枯渇」が起きてしまうというリスクがありますので、重要なテーマだと思っています。これに対して生命保険業界は、しっかりお支えしなければいけないと考えています。例えば「終身年金」などは、我々にしか提供できない商品ですから、そうしたことも生かしていきたいと思います。

生命保険業界は社会的課題にどう向き合うか


 ─ 人生100年時代を、最初から最後まで支える仕事になってきたと。

 稲垣 ええ。第一生命で言っても、「一生涯のパートナー」が経営理念ですが、時代によって寄り添い方は変わっても、一生涯支え続けるということは変わりません。

 ─ SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)といったキーワードもありますが、こうした社会課題にはどう取り組もうと?

 稲垣 その中でも特に、気候変動は大きな社会課題だと思っています。2050年のカーボンニュートラルにかかるコストは、今回の「骨太」にも一部書かれていた通り、相当な資金を必要としています。

 それに対して、当然政府が国費で取り組まれる部分もあると思いますが、我々は民間の投資家であり、かつ長い投資ができる存在ですから、この社会的課題の克服に、資金面でまずサポートできるのではないかと思っています。

 また、サステナビリティの部分では、気候変動に限らず「人権」や「生物多様性」といった様々な課題がありますから、その分野でも我々はしっかり責任を果たしていきたいと思っています。

 そして、この分野は競争領域というよりは非競争領域です。協会の仕事としてなじむのではないかと思っていますから、しっかりと旗振りをしていきたいと考えています。


いながき・せいじ
1963年5月愛知県生まれ。86年慶應義塾大学経済学部卒業後、第一生命保険入社。92年米ハーバード経営大学院MBA(経営学修士)取得。12年執行役員、15年常務執行役員、16年取締役常務執行役員、17年4月第一生命ホールディングス・第一生命保険社長。18年生命保険協会長、22年7月生命保険協会長。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事