2021-01-19

みずほ証券・飯田浩一社長「対面営業を担う 『人』の力の底上げにデジタルの力を」

飯田浩一・みずほ証券社長


米国での「銀・証一体」が業績数字につながる


 ─ 2020年6月に募集を開始した「グローバル・ハイクオリティ成長株式ファンド『未来の世界』」がかなりの売れ行きを記録したそうですが、これも努力の積み重ねということが言えますか。

 飯田 4年前の福家尚文副社長(日興証券=現・SMBC日興証券出身)の入社以降、株式の短期売買ではなく、グローバルの成長を個人の資産形成に組み入れるということで「長期・分散・継続」をキーワードに、ブレずに株式投資信託のご案内を続けてきました。

 その結果、今のマーケット環境下で含み益も蓄積しており、この活用で次の投資ができるという好循環が生まれています。

 社員の意識も変化し、証券会社はリテールもホールセールも、国内も海外も全てつながっているという意識も浸透してきました。これによって若手の戦力化も進み、危機的状況の中でも走ることができたのです。

 商品が売れたことは、巡り合わせに助けられた面はあると思います。そしてこれはお客様との信頼関係を紡ぐ中での、ポートフォリオのアドバイスコンサルという継続的なお付き合いの1コマです。数字ではなく、お客様に信頼していただき、つながる力が付いたとは感じます。

 ─ 今年度上期は各部門、全拠点で経常利益が過去最高を更新したようですが、特に米国の伸びが大きいですね。

 飯田 米国はDCM(債券引受)が普段の年に比べて倍のボリュームになっていますが、その中で我々のシェア、付加価値も上がっています。

 海外でCIB(Corporate andInvestment Bank)、つまり銀行、証券の一体化が進んでいますし、カバレッジとプロダクツ、プライ
マリーとセカンダリーの一体化を推進し、デリバティブ(金融派生商品)のインフラも強化しましたので、これが収益に効いています。構造改革の効果だと考えています。

 米国では野村ホールディングスさんも強いのですが、彼らはトレーディング型です。一方、我々は取引先、投資家に依拠した形でビジネスをつくってきたということでビジネスモデルに違いがあります。CIBモデルは当社の強みですが、これをもっと日本でも展開したいと考えています。

 ─ 20年9月に東京・丸の内の旧日本興業銀行本店跡地に「みずほ丸の内タワー」が竣工し、ここを銀行・信託・証券が一体となった拠点としますね。どう活用しますか。

 飯田 銀行と証券との関係ではファイアーウォールを意識した情報のコントロールは前提ですが、取引先から同意をいただいているケースでは、すぐ近くに銀行の営業担当者がいて、銀行と証券が相談しながらの提案活動がやりやすくなりますから非常に楽しみです。

銀行と証券の垣根をどう考えるか?


 ─ 今、まさに銀行と証券の垣根、「ファイアーウォール規制」の存廃が議論されていますが、この問題をどう考えますか。

 飯田 難しい歴史的なテーマを金融庁が捉えて、金融審議会でご議論いただいているので、状況を見守っている段階です。

 企業の経営課題、財務戦略はアセットだけでもデットだけでもなくトータルで考える必要があります。ビジネスポートフォリオを構築する中で、資金調達はデット、エクイティどちらを使うか、内外の投資家とどうお付き合いをするか、間接金融とのバランスをどう考えるかといった総合的テーマです。

 また、個人のお客様にとっても、ご自身の人生設計の中で、貴重な資産をいかに形成していくかという時にはトータルでご案内すべきテーマです。

 お客様の視点、経済社会、企業の成長、日本の国家戦略の中において、銀・証の壁はない方がより有機的、合理的にビジネス展開が生産性高くできます。

 ─ 証券会社からは、邦銀の優越的地位を懸念する声もあります。

 飯田 ご指摘の懸念について、優越的地位や利益相反を牽制するメカニズムは、すでに銀行法の中に内包されていますから、二重に規制をかける必要はないと考えています。入り口でシャットアウトするのではなく、問題が起きていないかを十分にチェックして罰則を設ければいいのではないでしょうか。

 同時に、日本の金融人材の底上げという観点でも、この問題は重要です。規制が撤廃されると、銀行と証券の業務を兼ねることで、双方のビジネスのリテラシーや専門性を共有することができるようになります。欧米の金融機関では、そうしたリテラシーを持った人達がトッププレイヤーとして活躍しています。

 銀行の人間が資本市場に精通し、証券の人間がグローバルな決済の商流を意識するといったことが生む相乗効果、人材の底上げが国家戦略的にも重要です。そのことがひいては法人、個人のお客様にお届けする付加価値を高めることにつながります。

 ─ 飯田さんは過去にみずほ銀行とみずほ証券の部長を兼務した経験がありますね。

 飯田 4年間、銀行と証券の営業部長を兼任していましたが、聞くのとやるのとでは大きく違うということを実感しています。また、銀行から証券会社の社長に転じて感じるのは、兼職だけではわからない、証券会社に入り込んだことでわかったことがたくさんあったということです。

 銀行と証券の壁を低くして、柔軟に行き来することが、グループ一体化、金融力の底上げのカギになると思っています。ファイアーウォール規制は、そのブレーキになっています。

 ─ 今はIT企業など異業種が金融に参入する時代です。

 飯田 そうです。金融と非金融の垣根なく、新たにビジネスを創造する時代ですから、銀行と証券という金融の中の小さい壁にいつまでもこだわっていてはいけないのではないかと思います。業界の垣根論にせずに、日本の未来を意識した選択肢として検討してもらっていると思いますから、今後も推移を見守りたいと思います。

 ─ 他社との連携では、ソフトバンクが出資するスマートフォン証券会社・One TapBuy( 21 年1月にPayPay証券に商号変更)を共同運営する形になっていますね。

 飯田 お互いに強い部分を生かしながら、企業の成長を実現するという狙いがあります。20年、30年スパンでビジネスを考えた時に、個人のお客様の資産形成ニーズにしっかり向き合う必要があります。

 人々の行動原理がモバイル重視に変わる中、特に決済データに重要な情報が含まれています。キャッシュレス決済のPayPayは、あれだけ短期間に、あれだけのボリューム感で広がる展開力を持っており、ソフトバンクさん、Zホールディングスさんとの組み合わせは、他との比較でも競争優位に立てる潜在力があると考えています。

 ─ ネット証券の中では手数料ゼロという方針を示すところも出ていますが、手数料問題をどう考えていますか。

 飯田 手数料はお客様からの信頼感があって初めていただけるものですから、我々はプロフェッショナリティを高める努力をし続けるしかありません。我々の収益のためではなく、お客様の資産を実り多くする上で、どのようなお手伝いができているかが大事です。

 手数料体系について様々検討していますが、お客様ごとにタイミング、料率は千差万別ですから、本来は相対で決まるのだと思いますが、それを類型化していく時に、今の立て付けと何を変えていくべきなのか、現状の方が合理的なのかについての検討は引き続き進めていきます。

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