2022-08-26

【テスラに次ぐ黒船襲来】「誰でも手が届く価格でEVを」中国・BYDの日本進出の衝撃度

BYDが2023年から日本で順次販売する3車種のEV

「これからの時代はEVを買うか買わないかではなく、いつ買うかだ」─。電動化が進む自動車業界。部品点数が少なくなる電気自動車(EV)で異業種参入が起きた。電池を祖業とする中国最大の新エネルギー車(NEV)メーカーのBYDだ。BYDジャパン社長の劉学亮氏は冒頭のように強調するが、台湾有事もあって同社のクルマが日本市場で受け入れられるかは未知数だ。米テスラに次ぐ黒船の襲来は何を意味するのか?

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「他とは本気度が違う」


「今のEVは価格が高く、インフラがない。走行距離も短く、車の選択肢も少ない。日本の消費者からのこういった声を真摯に受け止め、BYDは高い安全性と航続性能を持ち、豊富なラインアップかつ手に届きやすい価格で、日本の乗用車市場に参入させていただく」

 こう語るのは世界最大級の中国EVメーカー・BYDジャパン社長の劉学亮氏だ。同社は7月、国内に乗用車の販売やサービスを手掛ける新会社を設立し、2023年から3車種のEVを順次販売する。これまで同社はバスやフォークリフトといった商用電動車を投入していたが、ついに乗用車にも進出した。

 BYDと言えば、EVとPHV(プラグインハイブリッド車)を合計したNEVで中国最大のシェアを占め、22年6月には時価総額が約20兆円を突破し、世界の自動車メーカーの中でテスラ、トヨタ自動車に次ぐ3位に躍り出た企業だ。22年3月にはガソリン車から撤退。台数を伸
ばし、上半期の販売台数で64万台とNEVで世界トップだ。

 ただ、かつて韓国のヒュンダイ(現ヒョンデ)が日本に進出したが成功しなかった。背景には製品の不具合や整備の問題をはじめ、政治的な問題もあった。一方の中国とは昨今では台湾有事を巡っての緊張感もあるだけにBYDの日本進出は同社にとっての正念場と言えるだろう。

 そんな同社が日本に投じるのはスポーツ用多目的車「ATTO 3」、小型車「DOLPHIN」、セダン「SEAL」。自社製電池を搭載し、ATTO 3では1回の充電で走る航続距離は485キロと日産自動車のEV「アリア」並み。価格は未定だが、劉氏は「EVは富裕層向けの高価なものだったが、誰でも手が届く価格で提供する」と語る。

 日本の自動車メーカーの関係者「市場が活性化すると反応するが、「これまでのEVメーカーと気度違う」と警戒もする。というのも、異業種のEV参入では、異業種企業がクルマを企画し、生産は製造メーカーに委託するケースが多かったからだ。BYDは違う。

 劉氏は「中国・深圳に4万人のエンジニアを抱え、日々技術を進化させている。安全性の高い電池を自社で製造し、これまでもCO2削減に向けて世の中に必要とされる様々なモビリティーを自社で作ってきた」と語った上で、「日本のものづくりのDNAも学んでいる」と続ける。

 同社は10年に自動車用プレス金型で高い技術を持つ日本のオギハラの館林工場を買収。プレス金型はクルマを製造する上で最も重要な基本技術だ。BYDは日本で作った金型を中国に持ち込み、同国の自社工場でクルマを製造するという形態をとる。自社で日本のものづくりのエッセンスも内包しているのだ。

 さらに、同社は前述の新会社・BYD Auto Japanが顧客対応や充電、アフターサービスの拠点となるディーラー網を整え、25年までに全国に100店以上の販売店の展開を目指す。テスラやヒョンデが実店舗を持たない戦略とは対照的と言え、日本の自動車メーカーと類似した取り組みとも言える。

 実はBYDは商用EVの輸入で日本市場を開拓してきた。15年にEVバスを売り出し、自治体やバス会社に累計65台を納入。同社によると国内シェアは7割を占めるという。東京・上野動物園や長崎県のハウステンボスの園内を走るEVバスはBYDが製造したものだ。

 また、同年には電動フォークリフトも導入しており、その数は約400台にのぼる。他国ではシンガポールで電動ごみ収集車、お膝元の中国ではモノレールも自社製造している。

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