2022-08-22

【キッコーマン名誉会長 ・茂木友三郎のリーダー論】リスクを取らなければ、新しい価値は生まれない

キッコーマン・茂木友三郎 名誉会長

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デカップリングの時代をどう生き抜くか?

 コロナ禍に加えて、ロシアによるウクライナ侵攻が起きて半年が経つ。
 国という存在が陰に陽に絡む時代である。これまでのように、一直線に海外進出で事業を拡大発展させ、成長を手にするという状況ではなくなっている。例えば、お隣・中国とはどう向き合っていくかという課題。

「これが難しい問題で、デカップリングということですね。ソビエト連邦がつぶれて(1991)、グローバリゼーションが始まって、これからも世界は1つだとみんな思った。ところが、またいろいろな事が起こり、デカップリング(切り離し)が始まりつつあるわけですね」

 デカップリング─。自由・民主主義か専制主義かという価値観の違い。それに経済安全保障の観点から、戦略物資や先端技術分野を中心に、切り離しが進む。米中対立、またウクライナ危機を巡って、ロシア非難を強める米・欧・日の陣営とロシア非難を避ける中国、さらにはインドといった国々との間で対応が分かれる。こうした状況を指す言葉がデカップリングだ。

 かつての冷戦時代は自由主義(資本主義)陣営対社会主義陣営という明確な区分があったが、「そうした鉄のカーテンの時代と違って、今のデカップリングはそう単純ではない」と茂木氏。
「ウクライナ問題では、欧州はウクライナをバックアップする。だから間接的に欧州とロシアは戦争をしているんですね。にもかかわらず、ロシアからエネルギーを含め、いろいろなものを買っている。相手が中国だと、もっと世界の経済と結び付いている。日本や米国もそうだし、英国もドイツも同じ。非常に難しい問題で、そう簡単にデカップリングと言っても、きれいさっぱりと切り離しが出来るかどうかということ。非常に複雑で、非常に読みにくくて、政治家も経営者もやりにくくなる。そういう状況ですね」

 ウクライナ危機で、日・米・欧などに中国の台湾侵攻はあり得るという見方が強い。政治と経済が密接に絡まる時代だ。

資本主義は改革の歴史

 資本主義自体も時代に対応して、変革を余儀なくされている。
「僕は資本主義、自由経済主義というのは、他の経済システムと比べて、ベストだとは思わないけれども、ベターだと思うんです。これは、民主主義が他の政治システムと比べて、ベストとは言えないけど、ベターだと言えるのと同じこと。それはやはり、今後も続いていくだろうと思うんですね」

 茂木氏はこう語り、「ただ、それが後代にも続いていくとするならば、やはりその時々に必要な改革が求められる」という考えを示す。
 茂木氏が米国に留学した1960年頃、米国の企業社会では単に利益を追求するだけでは駄目だという考えが強まりつつあった。それは、単に株主のために利益を追求するのではなく、社会のために尽くさなければいけない─という考えであった。

「具体的には、他のステークホルダー、利害関係者にも配慮しなさいと。お客様だとか、取引先だとか、従業員、一般社会、そういう人たちのことを十分に配慮して経営しないといけないと。こういう考え方が1960年頃に強くなったんです」

 当時、ソ連の経済は強かった。ソ連の経済成長率が米国のそれより高い年が何年か続い
た。また、宇宙開発競争で、ソ連は1957年10月、史上初の人工衛星『スプートニク』の打ち上げに成功。
「そうした事もあって、米国は非常に危機感を持っていたわけです。このままでは、もしかすると社会主義経済のほうがいいということになる。資本主義経済の良さを示すためにはどうしたらいいのかというと、株主のためだけに利益を追求したら駄目だと。他のステークホルダーに対しても十分な配慮をしないと、資本主義のいいところが出てこないという考えが強くなった」

 今で言えば、企業の存在意義や使命とは何かという問題意識である。
 米国はその後、ベトナム戦争(1960年代半ばから1975年まで続いた)などで疲弊し、1971年に米ドルの切り下げ、金本位制からの離脱、輸入課徴金といった政策を断行(ニクソン・ショック)。試行錯誤が続いた。

 1980年に登場したレーガン大統領は経済政策『レーガノミクス』を打ち出す。規制を緩和して自由な競争を作ることで経済成長を促そうという政策。
 ただ、レーガン大統領の時代(1981―1989)にはレーガノミクスの効果は出なかった。

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本誌主幹 村田博文

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