2022-09-03

コロナ危機を経て、あるべき医療・社会体制を探るとき【私の雑記帳】

コロナ危機の教訓とは?


 コロナ禍の教訓とは何か?

 世界の感染者数は5億8000万人強で死者数は641万人強(8月5日現在)。このうち米国は感染者数9196万人強で死者数は103万2820人。次いでインドは感染者数4408万人強で死者数52万6530人。

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 日本は感染者数1361万人強で死者数も3万3176人と欧米と比べて、非常に少ない。

「日本は感染者数も死亡者数もそんなに多くはない。国際的に比較して、そうなんですけども、非常にうまくいったかというと、決してそうではないわけです」と語るのは河北医療財団理事長・河北博文さん(1950年生まれ)。

 なぜ、日本は欧米各国と比べて感染者数、死者数とも低いのか?

「今回一番役に立ったのは、実はワクチンとマスク。それに比べてものすごく貧弱だったのが、実は日本のプライマリ・ケアです」と河北さんは日本の医療課題として、プライマリ・ケアの不在を挙げる。

プライマリ・ケアの不在


 プライマリ・ケアとは何か?

「実は、その定義が難しいんですよ」と河北さんは語る。

「プライマリ・ケアを生活医療と訳して提言する医療人もいて、これは本当にいい言葉だなと、それでわたしなりに考えたんです」。そもそも、生活医療を日本は作ってきたのか?  という問題意識である。

「これは野放しなんですよ。フリーアクセス(受診者と医療機関の関係)、それから自由開業医制。これは全部何の規制もなく、自由にやってきてしまったと。これを自由ではない仕組みに変えなくてはいけないだろうと。このコロナを経験してみて、プライマリ・ケアの仕組みを作り直さないといけない」という河北さんの思いだ。

〝かかりつけ医〟という言葉がある。しかし、この〝かかりつけ医〟の定義は曖昧だということ。

「かかっているお医者さんはいるけど、じゃあそのかかりつけ医の役割は何かと言ったら、皮膚科は皮膚科だし、眼科は眼科(のタテ割り)で、生活に寄り添っていない。生活に寄り添うということの言葉の原点は、受容と傾聴と共感です。この受容と傾聴と共感のきちっとした定義が必要です」

家庭医という存在を!


 では、どう定義するのか?

「受容という漢字は、受け容いれるということですが、最初から受け容れることはできません。まずは(受診者を)受けとめることです。どうやって受けとめるか。受けとめ方がとても大切なんです。相手を受けとめるということは相手が心を開いてくれなければ受けとめられないわけです。相手が心を開くためには、自分が心を開く。自分が心を開いて、相手のあるがままを受けとめること。それが私の定義です」と河北さんは強調。

 河北さんは、生活医療が今こそ医療の世界に必要だと痛感しておられ、「かかりつけ医ではなく、家庭医という存在が大事」と提言。

 本号の『創刊70周年企画』のインタビューに登場していただいたのも、コロナ禍を契機に、これからの医療体制のあるべき姿を読者の皆さまと共に考えていきたいという思いからである。

小宮山宏さんの提言


「日本は食料とエネルギーを輸入に依存しており、その脆弱性が指摘されるが、世界各国が自給度を上げていく方向に向かうでしょうか、その自給国家になれる条件が揃っているというのが日本の強みだと、わたしは思います」と語るのは、三菱総研理事長の小宮山宏さん(1944年生まれ)。

『ベルリンの壁』崩壊(1989)から30余年が経つ。旧東側の社会主義体制がくずれ、一気に市場経済になだれ込んできた。いわゆるグローバリゼーションが進んだ。

「ええ。何かイメージとしては、世界単一経済市場ですよ。しかし、今度、逆に向かって、自立分散協調系の国家があちこちにできていくという世界になっていくんじゃないかなと」

 小宮山宏さんは〝自立分散協調系〟をキーワードに、『自給』を目指す動きが出てくると予測。

 無資源国・日本は食料自給率は37%(カロリーベース)と非常に低いが、今後どう対応していくべきか?

日本は食料の自給国家に


「自給を上げる基本条件は揃っています」と小宮山さん。

「その背景となるのは温暖で水が豊富だということ。これが日本の最大の資源ですし、植物の成長が早いと。それでサステナビリティを持たせるために、最初にブルントラントという人が国連で委員会を作って、そこで定義しているんですが、肝腎の農産物の生産をどうするかと。温暖化の問題、脱炭素の問題がある。それに対する答えとしては、毎年起きている光合成で、文明を成り立たせていくということですね」

 米国や豪州のような大規模農業で、しかも地下の〝化石水〟を大量に汲み上げ、水資源の大量消費を伴う旧来型の農業ではなく、情報技術を駆使して自律分散型、環境対応型農業への追求である。「知恵はあります」と小宮山さんは日本農業の時代が来ると語る。

「山で作った木材も、バイオマス化学でプラスチックをつくるとか、現に周南コンビナート(山口)などでそうした動きが出てきています」と日本には潜在力はあると強調する小宮山さんだ。

創業者精神と今後


「人々に夢と希望を」─。阪急電鉄(現阪急阪神ホールディングス)をはじめ、百貨店、宝塚歌劇団、東宝など次々と興した実業家・小林一三(1873- 1957)の経営理念である。

 明治期、大正、そして昭和の戦後の復興期と起業家精神を発揮し続けた小林一三を創業者に持つ東宝。その東宝社長に今年4月就任した松岡宏泰さん(1966年生まれ)は、小林一三の曾孫に当たる。

「大衆の方たちの日々をサポートして、幸福になっていただくかをずっと考えてきて、(映画の)東宝はその1つのピースだったかなと。その大衆(顧客)の皆さんに健全な娯楽を提供して幸せになっていただけるという理念を忘れてはいけないと思っています」。

 松岡さんは本誌前号で、創業者精神を受け継いでいくと力強く語ってくれた。

 今年は東宝の創業90周年。2032年の創業100周年に向けての〝10年計画〟と新中期経営計画で、同社に今後1100億円の投資を進める考え。

 「百周年に東宝はどういう会社でありたいかを考えました。10年後の東宝のあるべき姿。こうありたいという姿があるのなら、今やらなければいけないことがあるはずだと」

 創業者の理念を大事にし、受け継いでいく。同時に将来像を描き、バックキャストで、現在を担う自分たちが今やらなければならない事を考え、実行しようという松岡さん。伝統と創造が同居する東宝の経営である。

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