2022-09-26

【なぜ病院連携に成功したのか?】山形県・酒田市病院機構・栗谷義樹理事長に直撃!

地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構・栗谷義樹理事長(日本海総合病院院長)

くりや・よしき
1946年秋田県生まれ。72年東北大学医学部卒業後、東北大学第2外科勤務。88年酒田市立酒田病院勤務。98年同病院長。2008年地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構初代理事長、日本海総合病院院長に就任(16年まで)。

薬剤の貿易赤字はLNGに次ぐ

 ―― 産業界では急激に進む円安で輸出企業が恩恵を受ける一方で原材料価格の高騰といった余波も受けています。医療業界でも影響はあるのですか。

【既に全国5千を超える医療機関や薬局が導入】マイシン・原聖吾の「医療データ活用」ビジネス

 栗谷 日本の社会保障制度の保険料財源は6割弱程度で、4割は公費(国債)で賄われています。保険料収入の根幹となる被用者と使用者の負担能力、言い換えれば、日本企業の国際競争力と成長性、経営体力は持続的な社会保障制度の根幹です。

 一方、円の対ドル相場は昨年末から直近まで20円以上も下落し、今後も円安基調が続くと予想されています。かつては円安になれば製造業にとっては恩恵が大きいとの認識が一般的でしたが、円安で被る資源高や原材料高も大きくなっています。

 病院の医業費用について言えば、私の勤務する日本海総合病院の材料費(薬剤や診療材料)はこの5年間で診療材料で9億4500万円、薬品で2億7200万円とそれぞれ増加し、費用に占める材料費比率は3.7%増加しています。

 中長期的な円安が更に進めば、薬剤や診療材料が医療費に甚大な影響を及ぼす懸念があります。財務省貿易統計によると、医薬品の貿易赤字は6年連続で2兆円を超えているそうで、ここに新型コロナ蔓延が重なり、2021年は貿易赤字額が3兆円を超えるそうです。

 医薬品の貿易赤字の原因は2つ。日本企業が海外に生産拠点を移したことと、創薬力が落ちたことが理由ですが、海外発の超高額な新薬もこれを加速させています。薬剤の貿易赤字は液化天然ガスに次ぐ3番目の輸入超過品目で、これに円安分が上乗せされるので、中長期的な円安が今後も続けば影響は更に深刻になります。

 ―― 新型コロナワクチンにしてもファイザーやモデルナなど海外のワクチンを輸入していますからね。日本ではワクチンを作れず、製薬メーカーも研究開発機関を海外に移しています。

 栗谷 もともと1980年代までは日本のワクチン技術は非常に高く、海外へ技術供与までしていたようです。しかし、92年の予防接種の副作用訴訟で国に賠償義務判決が出され、その2年後に予防接種法が改正されて接種は努力義務になり、接種率も低下していきました。

 海外開発ワクチンの国内承認にも長い時間がかかる、いわゆるワクチンギャップが常態化して、国内メーカーも次第に開発から距離を置くようになったことが、現在の状況をもたらしていると言われます。

 ―― 日本の製薬業の置かれた現状が先ほどの数字に表れていますね。では、そこでどうすべきか。グローバル化する中で、自らの役割をどう追求していくが大事です。これは経済安全保障とも絡みますが。

 栗谷 世界標準医療の提供と経済安全保障は一体のものと思いますが、それが最近の世界的な地勢的不安定とグローバル経済の潮目が変わったことで、経済安保に係る薬品、医療デバイスなどの重要性はより高くなっていると思います。

 ―― 国の根幹に関わる話ですね。医療の安全保障という概念もまだありませんね。

 栗谷 患者医療情報や医薬品の医療データベースに関しては、経済安全保障を強く意識した捉え方になってきているとは思います。製薬も安定的な原薬調達先と地政学的状況は密接に関連していますし、画期的新薬などは今後、経済安保としての位置づけがより強化されていくと思われます。

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