2022-09-22

【経団連会長・十倉雅和】の「成長戦略、分配戦略につながる人への投資を!」

日本経済団体連合会 十倉雅和会長

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日本の立ち位置は?

 民主主義国は87カ国、非民主主義国は92カ国─。という数字がある。民主主義、法の支配、人権尊重という価値観を重んじる国々のほうが多いと思いがちだが、そうではないという現実。
 こうした混迷状況下で、日本の立ち位置をどこに置くか。また日本はどう振る舞うべきか。
「コロナ禍の前から地政学リスクは高まっていました。キーワードで言うと、ライク・マインデッド・カントリーズ(同志国)とか、フレンド・ショアリング(サプライチェーン=供給網を同盟国内に収める)とか、そういう言葉が飛び交っています。それに、NATO(北大西洋条約機構)の事務総長のイェンス・ストルテンベルグさんがダボス会議で言った言葉があって、それが全て言い当てていると。彼は『自由は自由貿易よりも尊い』と言ったんです」

『自由は自由貿易よりも尊い』─。この事をどう考えるか?「われわれ経済人は、自由貿易
は何事にも代えがたいという考えがあって、米トランプ大統領の時代に保護主義が台頭し、G7(主要7カ国会議)でも自由貿易の維持で大騒ぎになってしまいました。ところが今は、自由貿易に代えて自由で開かれた国際経済秩序が大事だと言っています」

 十倉氏はトランプ以降の世界の流れを振り返り、次のような認識を示す。
「経済も大事だけれども、もっと基本的な『自由』という価値観が大事で、経済もそこから無縁ではあり得ない。そうした考えが、最近の流れになっていると思います」

 では、経済運営は具体的にどうするのか?
「何でもかんでも自由にやれるのではないのだと。価値観や哲学を同じくする国同士で、ありきたりの言葉で言えば、自由・民主主義、法の支配、人権尊重という考えを同じくするライク・マインデッド・カントリーズの中で共に対応していく。経済安保的な機微技術に関わるようなもの、安全保障に関わるようなものは一緒にサプライチェーンを組むということですね」

 十倉氏はこれからの基本スタンスをこう述べながら、世界のブロック経済化を防ぐための努力も必要と次のように語る。
「ただ、そうした流れが行き過ぎれば、国際的サプライチェーンを分断するブロック経済化してしまうかもしれない。僕ら経済人や産業界としては、そうなってはいけないと思うし、現実にはそういう風潮にまではなっていないと。ただ、少なくとも、何でも自由貿易、自由経済でやっていけないのも事実。そのことを、われわれ経済人も甘んじて認識しなければいけないと思っています」

 現に、日米両政府は7月末、双方の外務・経済閣僚協議『経済版2プラス2』を開いて、次世代半導体の共同研究を進めることを決定、サプライチェーン強化の第一歩を踏み出した。

中国との関係はどうあるべきか

 隣国・中国との関係はどうあるべきか?  今年は日中国交回復50周年という記念すべき年だが、台湾問題を巡って、米中対立が強まり、日本も尖閣・日台交流維持の問題を抱え、微妙な空気をはらむ。日中関係はどう進めていくか。

「中国は世界なしではやっていけない。世界も中国なしではなっていけない。これは、私が経団連会長に就任してから一貫して言ってきているし、多くの人も同じ意見だと思います。協調と競争をうまくバランスを取ってやると。そういうことだと思います」

 米中対立は価値観や経済制度の違いもあり、覇権争いの要素もこれに絡む。さらに、台湾有事問題が加わり、政治的に米中対立は深刻度を増す。
 一方、経済領域でいえば、米国にとって中国は最大の貿易相手国であり、中国にとって米国は最大の貿易相手国である。

 この米中関係においても、十倉氏は「オール・オア・ナッシングではない」と語る。
 日本は今年秋、日中国交回復(1972年、田中角栄内閣の時に実行)から50周年を迎える。
経団連もこの国交回復50周年を記念して、9月27日にシンポジウムやセレモニーを開催する予定。危機の中での対話継続だ。

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本誌主幹 村田博文

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