2022-10-04

YKK社長・大谷裕明の「混沌の今こそ、創業者の『善の巡環』思想で」

YKK社長 大谷 裕明


 実際、各地域の縫製メーカーは辛くて、厳しい状況にあった。欧州や中国の主要都市ではロックダウン(都市封鎖)が続いた。それが解除され、2021年度にオーダーが回復したときに平常時に合わせた生産再開へ向けて、各国の縫製メーカーは動き出した。

 しかし、コロナ禍は長丁場の戦いとなっていった。各国政府も試行錯誤というか、思い切った措置に出るところもあった。
 例えば中国・上海市。今年3月下旬から6月1日までロックダウンに踏み切った。感染者の出ている地域は完全に封鎖する─という厳しい措置。

 YKKグループの現地工場に勤める従業員も当然、自宅と工場の間を通勤できなくなる。現地の従業員たちはどう行動したのか?

 YKKは上海に2つの工場を持ち、従業員数は約1800人。
 ロックダウンの約2カ月半、上海の従業員たちは工場内に寝泊まりし、操業を続けた。

「これは強制じゃないんです。そうやったほうがいいと中国人の幹部の方が言ってくれて」

 現地法人の幹部としては、工場で寝泊まりして、体でも壊されたら、それこそ本末顚倒になる。簡易ベッドを約1200用意し、睡眠を十分取りながら仕事に当たったという。

 食料はどう確保したのか?
 ロックダウン中の上海市では、自宅待機者の中には、個人で手当てできにくい状況が続き、〝食料争奪戦〟の様相もあった。

 50人以上の人が集まり、集中購買しないと、食料が届かないといった現実。
 YKK上海工場でも、集中購買を実施し、これを上海市当局が支援してくれたという経緯。

 工場単位でのまとめ買いということだが、これも「日頃から現地法人のトップが社員に対して、しっかりした福利厚生をやっていたし、そういう企業姿勢を示してきていたと。ですから、いざというときに市当局も助けてくれるのかなと思いましたね」と大谷氏は感想を語る。

 このほか、ベトナムでも昨年の夏から秋にかけてロックダウンが行われた際、現地の従業員たち(約1000人)が約1カ月間、工場に寝泊まりし、操業を続けた。

 こうした海外の現地法人の従業員たちが自発的に、今、自分たちが何をやるべきかを考え、実行に移している現実を目の当たりにして、大谷氏は「うれしいです」と心の内を明かし、「これは創業社長(吉田忠雄氏)がよく言っていた森林経営の1つじゃないかと思います」と語る。

本誌主幹 村田博文

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