2022-10-04

YKK社長・大谷裕明の「混沌の今こそ、創業者の『善の巡環』思想で」

YKK社長 大谷 裕明


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 YKKの世界での活動拠点は72カ国に及び、グループ会社数は67にのぼる(2022年3月現在)。1社1社で見れば、売上高で200~300億円という所から、小さい所で数億円という国もある。平均すれば60億円台になる。

「会社の大小の規模にかかわらず、経営者としての心構えは同じです。大きくても小さくても、彼らは、わたしを含めていい経験を2020年、2021年はできたなと思いますね。それは、創業者の『善の巡環』の体験であり、その創業思想に立ち返るしかないということですね」

 同社は中期経営計画を4年単位で策定。今の第6次中期経営計画は2021年度から2024年度の期限。コロナ禍の直撃を受けるなど環境は激変した。

 実際、コロナ禍1年目の2020年度は前述のように大幅な減収減益。計画は大きく狂った。

「皆がコロナ禍で苦労しているときに、本部は数字が出せるかと。大変な負荷をかけるだけだから、本部は方針だけを決めました。いつもなら、その年の3月に、その次の4年間の中期数値を出し、経営方針説明をするのですが、数字を出さなかった」

 大谷氏はこう述べ、経営の方針として、「こうやりたいという方針の中に、創業思想への回帰を盛り込んだ」と語る。

 混沌とした状況の中で、自分たちの使命と強みは何か? という自問自答。それは創業(1934年)以来続く営み。

「お客様1人ひとりに合わせたOne to One(ワン・ツー・ワン)対応です。それぞれのお客様が展開する新しいビジネスモデルに対応するために、どこよりも優れた商品、技術を開発していく」

 Technology Oriental Value Creation(技術に裏付けられた価値創造)をはじめ、『商品力と提案力』、『技術力と製造力』、『新しい顧客の創造』などの言葉が並ぶ。

「こういうのはすべて創業思想への回帰なんです」と大谷氏。

「事業とは、橋を架けるようなもの」

 創業者・吉田忠雄氏は「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」という『善の巡環』を経営思想の根幹に据えた。そして、「事業とは橋を架けるようなもの」と説き続けた。

「わたしは、『善の巡環』にずっと共鳴していたんですが、遂に世の中もそうなるかと思ったのが、サステナビリティ(持続性)の登場です。ちょうど2015年の国連サミットでSDGs(合計17の持続的成長目標)が提唱され、それからサステナビリティ志向の考えが世の中に広まりつつありますね」

 株主中心主義の経済といわれた米国で、主要百十数社の集まりである『ビジネスラウンドテーブル』が2018年に、企業経営とステークホルダー(利害関係者)との関係を見直した。

「ええ、以前は1番目が株主でした。それを、顧客、従業員、そしてサプライヤー(取引先)、地域社会を掲げたあと、最後に株主だと。これって、われわれが創業以来、言ってきたことと同じことを彼らは言っているんだなと。わたしは内心そう思っているんです」

 機械は常に進化する。その機械を最適なやり方で整備できる腕が必要だし、「世界のどこでファスナーを作ろうと、技術者は必要なんです。それを輩出する役割が『技術の総本山』である黒部だと」と大谷氏は語る。

 ファスナーの95%以上は海外で使われる。日本から技術者や営業関係者も海外へ派遣されるが、根幹技術の現地での応用となると、「絶対ナショナルスタッフにはかなわないです」と大谷氏。

 日本と海外の連携である。
 建材のYKKAPを入れたYKKグループ全体の従業員数は約4万7000人。うちファスナーのYKKは約2万7000人(そのうち日本人は約5000人)という従業員構成。

 内外の連携強化は絶対に必要。
「今年以降、必ず世界の情勢は厳しくなる。圧倒的なコスト競争力をもう一度磨きあげる」という大谷氏の決意であり、経営者としての覚悟である。

本誌主幹 村田博文

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