2022-10-04

YKK社長・大谷裕明の「混沌の今こそ、創業者の『善の巡環』思想で」

YKK社長 大谷 裕明

コロナ禍などでの環境激変、混沌とした状況下で経営のカジ取りをどう進めるべきか─。基本的なことは創業思想に含まれているとして、「創業思想への回帰」が大事と語るのは、ファスナー最大手のYKK社長・大谷裕明氏。コロナ禍1年目の2020年度(決算期は2021年3月期)は減収減益となったが、大谷氏は「こうしたドン底のときこそ、経営体質を見直すとき」として、在庫削減などのコスト低減や製品の納期を早くするプロジェクトを立ち上げて実行。100年に1度の“危機”とされるコロナ禍は誰もが未経験であり、結局は自分たちの頭を使い、自分たちの手と足で対応策を実行していくほかはないという問題意識。売上の95%は海外で、世界5極体制を敷き、日本を含む6つの事業地域体制を展開するYKK。中国・上海工場では今春のロックダウン(都市封
鎖)の際、従業員たちが独自判断で工場に寝泊まりし、工場の生産を守り続けた。こうした自律的な行動を育んできた創業精神『善の巡環』の今日的意義とはー。
本誌主幹

文=村田 博文

コロナ禍でプラス、 マイナスの両面が…

 緊張感の続く毎日─。本社(東京都千代田区神田和泉町)と工場や研究開発本部のある富山県黒部市との往来にも人一倍神経を使う。

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「きのうPCR検査を受けたばかりです。今日のインタビューでお会いさせていただくのに合わせて受けました。あと黒部に行くときも、PCR検査を必ず受けています。黒部市しか工場がありませんのでね。われわれが行って、万が一感染が広まって、現場が止まったとなると、とんでもない事になりますので、かなり神経質にはしています」

 YKK社長・大谷裕明氏は日々の危機管理についてこう語る。緊張感の連続である。
 YKKグループはファスナー作りのファスニング事業とAP(建築用プロダクツ)事業を中核に、世界72カ国・地域で事業を展開するグローバル企業。グループ会社数は106社にのぼり、従業員数は4万4410人を数える。

 グローバル経営体制の骨子はガバナンス(統治)と事業推進体制を分けていること。
 世界を5極に分け、各地域統括会社がその地域内の事業会社に対し、資本管理とガバナンス強化を中心に経営をサポート。

 5極とは、東アジア、Americas(北中米、南米地域)、EMEA(欧州、中東、アフリカ地域)、ASAO(ASEAN=東南アジア諸国連合、南アジア、太平洋地域)、中国の5極である。
 この5極と日本の計6つの事業地域との対話を重ねるため、コロナ前、大谷氏はしょっちゅう現地を訪ねていた。以前は、毎月の3分の1を本社・東京で過ごし、次の3分の1を『技術の総本山』である黒部事業所(富山)で過ごしていた。

 そして、もう3分の1を海外拠点回りに充当。しかし、コロナ禍の発生で事情は一変。海外は訪問しにくい状況が続く。
「それが一番の悩みと言いますかね。なかなか行けなかったんですが、5月にはほぼ3年ぶりに、ASAOの地域統括会社の株主総会に行ってきたんです」

 大谷氏は、世界全体を見るYKK社長として、各地域統括会社の取締役も兼ねている。
 シンガポールで開催された地域統括会社の株主総会では、久しぶりに各国の会社の首脳と会い、対話してきたという。
「そのときは、地域統括の社長が気を遣ってくれて、全アジアの社長に声をかけて、日本からわたしが行くので、久しぶりだろうから皆で会わないかって。10人前後が集まり、顔を合わせました」

 ベトナム、インドネシア、マレーシアなどのASEANやパキスタン、バングラデシュなどの南アジア、太平洋豪州などの地域から12カ国の首脳が集まった。
「3年ぶりの顔合わせでしたが、一安心しました」と大谷氏。
 コロナ禍は経営のあり方についても変革を促し、プラスとマイナス、両方の影響を与えている。まず、良い事とは何か?
「瞬時に遠く離れた海外の責任者とオンラインで会議ができること。これは本当に便利です」

 大谷氏はこう感想を述べながら、次のように加える。
「とにかく一対数百の会議もパッとできる。ところが、わたしはそれが苦手。相手の顔とか見ずにしゃべるというのは、本当に難しい。どんな反応をしているのか分かりませんのでね」

本誌主幹 村田博文

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