2022-10-04

三井住友トラストHD・高倉透の「三位一体戦略」 投資家、起業家、金融機関をつなぐ資産運用

高倉透・三井住友トラスト・ホールディングス社長



 もう一つ、注目されるのが資産運用。グループの三井住友トラスト・アセットマネジメントと日興アセットマネジメント合算で、運用資産残高が約120兆円、資産管理残高は約240兆円と、グループでアジアトップクラスの規模。

 主な投資家としては公的共済や企業年金がいる。不確実性の高い時期だが「こうした投資家の方々は基本的に国内外の資産に分散投資をしているが、最近では『オルタナティブアセット』もかつて以上にウエイトが高まっている」。投資対象に従来型の資産と違う値動きをするオルタナティブアセットを組み入れることで、リスクを分散するという考え方。

 投資家のポートフォリオを確認し、そのリスク許容度に応じた商品、サービスの提供を行っているが、そこで培った知見を、個人の領域の「ファンドラップ」組成にも役立てている。

 機関投資家、個人どちらに提供する商品でも、どういった資産配分にするかが、運用の巧拙にかかわる部分。グループの2社はこの10年で運用資産残高が倍に増加しており、これは投資家からの評価の表れと言ってもいいかもしれない。

 2022年7月7日には、米国の大手投資ファンド・アポロ・グローバル・マネジメントとの資産運用での提携を発表した。三井住友信託銀行を通じて、アポロが運営するファンドに15億ドル(約2000億円)を投資する。

 投資家としての立場からは「アポロさんのファンドに入っている分野には投資してきており、これまでの知見で目利きができる。さらに、新しい分野も入ってくることで、知見が磨き上げられる」。

 さらに、資産運用・資産管理の面では、アポロとの提携・投資関係から、様々な知見を蓄積した上で、数年後には日本で個人や機関投資家向けの「未上場企業投資」の商品を提供することを目指す。

 さらに、こうした未上場企業投資では、流動性が低く、最低投資単位が大きいという課題もある。「こうした商品は小口化すればするほど流動性の付け方に工夫をする必要があるが、今も工夫をし続けて、お客様に未上場企業投資商品などを提供しており、さらに知恵を絞ればできる。個人の方に提供していくための流れはすでにできていると考えている」と高倉氏。

 この取り組みで従来の株式や投資信託に加えて、個人・企業に「未上場企業投資」という新たな投資の選択肢を提供することができるかが問われている。

 日本の個人金融資産は2000兆円を越えるが、未だに大半が預貯金として滞留している。政府や金融業界は「貯蓄から資産形成へ」と訴えてきたが道半ば。しかも、近年は日本でも「未上場企業投資」を手掛ける企業が増えてきたとはいえ、緒に就いたばかりと言っていい。

「投資をしなければ将来の果実はないということははっきりしている。例えば今、カーボンニュートラルに向けて、グリーンな社会をつくろうとしているが、日本に投資しなければ実現しない。投資するかしないかが、社会に大きな影響を与える局面になっている」(高倉氏)

 リスクを取って投資することが求められているということ。その観点で言えば、日本ではなかなかベンチャー企業が育たないという課題もある。今後、リスクを取って挑戦する起業家に資金が回る仕組みづくりをしていくことも必要。

「これは意識してつくっていく必要がある。我々は、技術を持つスタートアップの方々が社会実装していく過程で、その企業の成長を、どうサポートするかということにエネルギーを使っている」

 今、技術を持つ地方の国立大学、その地域の地方銀行などと連携して、ベンチャー企業の支援や、社会課題を解決する取り組みのためのリスクマネー供給、資金循環の仕組みづくり「地域エコシステム」の構築に取り組んでいる。

 ベンチャー企業に資金を供給する存在としてはベンチャーキャピタルなどがあるが、投資対象企業に上場してもらって、そのリターンを得なければ事業が回っていかないという現実もあり、企業規模が小さい状態で上場させてしまう事例も多い。

 三井住友トラストの取り組みでは、中長期の資金が企業に供給される流れをつくることができるかが問われている。


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