2022-10-02

第一生命経済研究所・熊野英生氏が抱く「経済安全保障への疑問」


「経済安全保障」は最近の流行語だが、筆者は少し効果が怪しいと感じている。企業が経済安全保障に努力しても、重要な課題に応えられないからだ。一般的に経済安全保障に注意することは、軍事転用可能な技術の流出を防ぐと考えられている。最近には、ウクライナ侵攻で対ロシア制裁の禁輸対象品目が指定された。米国では、対中国取引で重要な技術14分野を対象にして、それらが渡らないようにチェックリストをつくって確認している。

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 しかし、よく考えると、危険性のある取引を排除したとして、日本が置かれた各種の安全保障リスクにきちんと対処できているのか。筆者は、いわゆる経済安全保障リスクだけに目を配っても、広い意味での経済的安全保障を守れないと考えられる。

 

マクロ的な観点


 筆者が重視するのは、広い意味での安全保障とは、食糧安全保障とエネルギー安全保障がある。しかし、対ロシア、対中国の外交関係が悪化すると、日本のエネルギーと食料の供給が不安定化し、かつ、それらを安値で確保できなくなる。この不安は、最近、ドイツで現実のものとなった。8月末にロシアがドイツ向けの天然ガス供給をノルドストリームの定期点検を口実にして止めたからだ。ドイツ経済は窮地に立たされた。将来、日本で同じような危機に立たされはしまいか。

 すでにきな臭いことは起きている。世界の天然ガス需給は逼迫して、オーストラリアなどは自国への供給を優先して、輸出を規制するかもしれない懸念が生じた。インドネシアも、石炭輸出を制限する対応を採ったことがある。

 世界的な半導体不足も、中国、台湾、韓国からの安定供給ができなくなっていることに端を発した。この半導体不足の一因には米中対立があるとされる。中国のファウンドリーを規制対象にしたから、欧米企業が台湾・韓国企業との取引にシフトして、既存の日本企業の取引は割を食った。

 こう考えると、経済安全保障と言われている輸出管理だけをやっていても、不十分だということがわかるだろう。
 

一体、何が必要とされるのか?


 バイデン政権は経済安全保障の枠組みをつくり、それが日本に持ち込まれて、経済安全保障推進法が成立された。機微技術と呼ばれる重要分野で、中国に先端技術が渡らないようにブロックする対応だ。

 しかし、本当に必要な経済面でのリスク対応は資源輸入が途絶えたり、食糧輸入が制限された時への備えだろう。エネルギー・食料品価格の上昇にも注意することが大切だ。

 米国から持ち込まれた経済安全保障のメニューだけに取り組んでいても、本当に必要とされるリスク対応が何もできていないのでは困る。せっかく経済安全保障の担当大臣まで置いたのだから、岸田政権は借り物ではない経済安全保障の体制をつくってほしい。

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