2022-10-06

【三菱総研理事長・小宮山宏】2050年の最大産業は、『人財養成産業』に

三菱総研・小宮山宏理事長

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豊かな水資源を活かして

「水というものは、これからものすごい資源になってくる。水争いで戦争になりそうな所が、世界で10か所位あるわけですから」と小宮山氏。

 1900年時点で、世界の人口は約16億人。それが2000年には約60億人台になり、2022年には79億5400万人と、80億人近くまで急増した。
 今後、世界人口の伸びはスローダウンする。それでも、全世界で80億人弱にまで人口は膨らんだということ。このうち10億人以上は今でも、安全な飲料水を得られないでいる。

 人口増に加え、異常気象の頻発。地球規模で気候異常や海面上昇が続く。「降る所はやたらと雨が降るんですが、乾燥地はますます乾燥するということが現実に起きている。その中で水がこれだけ安定的に得られる日本というのは、極めて条件的に恵まれているわけですね」

 化石水(かせきすい)─。雨が少ない乾燥した国や地域では、この化石水が貴重な水資源になっている。化石水は太古の昔に生成され、地下の帯水層に蓄積されたもの。あるいは地中に残存した海水が地下水になっているものを指す。
 一大農業国・米国のプレーリー(大平原)でもそうした化石水を活用して農業が営まれてきた。豪州などにもこの化石水があり、その量は膨大で、すぐには無くならないものの、各地の水位は明らかに下がっている。
 地中海沿岸の乾燥地リビアなどでは、この化石水が枯渇しているといわれ、深刻な水不足に見舞われている。

 北米や豪州などで営まれる大規模農業は、「20世紀型の産業革命、機械文明には非常にうまくマッチしてきた」と小宮山氏は語り、「日本ではなかなかそういう大規模農業ができずに、不利な状況が続いた。今は情報技術が加わったし、状況は変わった」と、新しい農業の時代を迎えたという認識を示す。

 日本の農地はこれまで山間部が多いとか、狭い農地では生産性が低いとされてきた。農業所得が低いとして、農業の就業人口も減り、今は約160万人(1985年は約540万人)
までに減少。
 耕作放棄地も約38万6000㌶とされ、埼玉県の面積を超えている。
「確かに農業人口がものすごく減り、後継ぎもいなくて困っているわけですが、基本的に小規模で高効率の農業、小規模分散型のIT農業をやっていけば、新しい時代を切り拓けます」
 開拓すべき道はある。

資源自給国家へ向け発想転換を!

 プラチナ社会が目指すものとは何か?という問いに、小宮山氏は「資源自給国家」と即答。
 産業革命から2百数十年、『人工物の飽和』が進み、金属類などの資源も都市鉱山から十分な量をリサイクルで取り出せるようになった。
 日本は国土の3分の2を森林が占めるのに、木材の自給率が10年前は25%位と低かった。森林大国であるのに、木材を輸入に依存するという国になっていた。その後、自給率は30%台になり、最近は40%近くに上昇。
 森林資源も、光合成を活用するという戦略を推し進めることで自給国家に近づくことができる。その活用の一端とは?
 年間、253億㌧の木材を産出するとして、住宅向けなどの木材として活用できるのはその約3割。7割が材木にならないとすれば、他にどんな用途で使えるのか?

「もちろん一部は紙ですが、相当部分が石油化学に替わるバイオマス化学。バイオマス化学というのは昔からあるんですが、トウモロコシとか砂糖とか、そういうものを使ってプラスチックを作ることは簡単です。ただ、食料と競合するものは多分駄目だろうと。食料はそんなに有り余っているわけじゃないですから。やはり山で作った木材を化学の原料にしようと。今の石油化学に替わるね。それを今の化学産業でも志向し始めていて、現に周南コンビナート(山口県)では動き出しています」

 森林はバイオマス化学の他に、太陽光によるエネルギーを採取する場所でもある。その活用をトータルで考えるべきだということ。
「エネルギーは太陽光、風力、水力と多様にある。水力だって非常にあるし、地熱も使いたいならあるし、バイオマス、蓄電池のようなものもあるし、いろいろなものがありますよ。そこで大事なのが送配電網。今の9電力体制を前提として考えているから前に進まない。ビジョンとしては、日本中1つの送配電網ですよ。そこにいろいろな発電所がぶら下がって、マーケットになるのかどうかは分かりませんが、やり取りするということをやれば、今年の電力不足なんて起きていないですよ」

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本誌主幹 村田博文

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