2022-10-10

【防衛大学校長在任9年を総括】國分良成氏に直撃!「真摯で、純粋な若者に刺激を受けた9年でした」

國分良成・前・防衛大学校長

「国民のために働きたいといった志を持った若者が集まっており、その純粋さに逆にこちらが刺激された」と話すのは、前・防衛大学校長の國分良成氏。国民を守る自衛隊の仕事は過酷だが、学生達は卒業しても「生まれ変わっても防大に」と話すという。そうした志を持った若者をどう養成するか、國分氏ら教員は真剣に議論し、実践してきた。これからの教育のあり方をどう考えるか。

【あわせて読みたい】次期防衛大学校校長に久保文明・東大大学院教授が決定


戦後日本が生み出した叡智の結晶


 ─ 國分さんは9年間、防衛大学校長を務めた経験から『防衛大学校』(中央公論新社)という書籍を出されましたね。改めて在任時を振り返って何を感じますか。

 國分 防衛大学校のすごさは一言では言えませんが、戦後の日本が生み出した一つの叡智の結晶だと思います。教育・訓練の要素もあれば、リーダー養成の要素もあり、国を守るという国防の要素もある。

 さらに大学という高等教育機関であると同時に士官学校でもあると。このバランスを取り、両立を図ることが大事でした。人のため、公のために働く人材、人のために人生を捧げる覚悟をもった人材を養成するためにつくられた学校ですから、目的は非常に明確です。

 私は一般大学の経験も長いですが、一般大学は「社会に有用な人材」を送り出すという漠然とした目標を持ち、その後、多くは企業に入っていきます。企業に入ることに目的性を持っているわけです。ある方が言っていましたが、就職活動というのは合う鍵を探すようなものだと。結果、学生は合った企業に入っていくのです。

 ─ ある意味で、企業に入ることが目的化していると。

 國分 ええ。自分たちが本当にその企業に入りたいということよりも、結果として入ったことによって、入社することを目的化してしまっています。一体、何のためにその会社に入るのかというミッション、使命感が薄く弱い面があるんです。

 私が慶應義塾大学にいた時には、学生達に「大企業に入るのはいいが、そこに入る意味はどういうことだ、何を目的に入るんだ」と問うてきました。しかし、多くの場合、一般大学の先生達は、いい企業に就職できたら、それで満足だという話になってしまうんです。

 ─ 防衛大学校は違ったと。

 國分 防衛大学校で驚いたのは、使命感やミッションという言葉を使わずとも、最終目的が「どうやったら人のために役に立つか」ということしかないということです。

 これは徹底的に教育するだけでなく、学生たち自身の努力がないとできません。ですから普通に育った20歳前後の若者達を、どのように育てるかという議論を常にしていました。

 誤解を恐れずに言えば、9年間校長を務めて、初めてこんなに真剣に教育のことを考えたという感じがしているんです。
 ですから、今回本を出すことになって、出版社の方も防衛大学校の本は教育なのか、軍事・安全保障なのか、戦後史なのか、どこに位置させるか迷ったようです。私も「この本を何のために書いているのか」を自問自答しながら書きましたね。

 ─ 書いている間、どういう思いがよぎりましたか。

 國分 やはり「教育とは何か?」という問いが頭の中にありましたね。有為な人材をどうやってつくるか。これは人材養成学校としては、非常に大事なことだと思います。

 入ってみるまで想像だにしていませんでしたが、防大の卒業生は結構変わり者が多いんです(笑)。そして、彼らの個性はかえって温存されるんです。

 ─ 一般的に、自衛隊という厳しい環境の中では個性が失われてしまうのではと思いがちですが、そうではないと。

 國分 そうです。仕事に関しては、組織の論理が優先しますので、個性を抑えなければいけません。であるがゆえに、逆に個性が温存されるんです。
 卒業生達に会っていると、すでに自衛隊を引退した人達は特に個性が爆発しています(笑)。抑えていたものが、みんな出てくる。話していて、とっても面白いですよ。

 みんな、育ってきた環境が違いますから、個性は違うわけです。一方で非常に規律と命令を大事にする仕事であり、組織で動いています。その意味では、基本的には誰が来ても能力は変わらず、個性によって仕事に影響が出るということをできるだけ避けようとします。

 でも、20歳を越えた人間の個性は、年齢を重ねてもそこまで変わりません。ずっと温存される。それに寮生活でみんなお互いに個性を知っている。

 ─ お互いがお互いのことを深く知る関係だということですね。

 國分 同じ場所で24時間一緒ですからね。「親は騙せても同期は騙せない」とみんな言いますが、そういう世界の中にいるとお互いに個性を知り尽くして、それを尊重しているわけです。

 ─ 寮では8人から10人が1部屋で暮らすそうですが、日々どういう状況ですか。

 國分 知らない者同士が8~10人で、学年も1年生から4年生までがごちゃまぜに入っているわけです。そういう環境で過ごしていると、彼らはどこに行ってもその環境に合わせることができます。彼らに聞くと、どこに行っても、その組織の「匂い」を感じて、合わせることができるというんです。

 全く知らない環境に中に入れられるわけですから、そこでお互いを理解していないとおかしなことになります。私が在任していた期間でいじめの事案なども起こりましたが、そうしたことも経験しながら、見ているとその中で切磋琢磨していくという感じです。それがうまくいくと、人間関係が一生続くと。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事