「いくら『権力』を持っても『権威』が生まれるとは限らない」─前・防衛大学校長の國分良成氏はこう指摘する。中国の第20回共産党大会が終わり、習近平総書記体制は規定を変えて3期目に突入した。そして最高指導部人事を自らに親しいメンバーで固めるという、世界の事前の予想を裏切る事態に。今後、中国はどう動き、世界はどう対応すべきなのか。世界と習近平では 「合理性」が違った ─ 中国共産党の第20回党大会が終わり、習近平総書記の3期目が始まりました。まず、党大会をどう総括しますか。
【あわせて読みたい】【防衛大学校長在任9年を総括】國分良成氏に直撃!「真摯で、純粋な若者に刺激を受けた9年でした」 國分 まず驚いたのが、我々専門家を含め、中国の指導部人事に関する世界中の予想がほとんど外れたことです。
事前の予想では、次の首相候補として副首相の胡春華(中国共産主義青年団=共青団派)、全国政治協商会議主席の汪洋(同)の名が挙がり、現首相の李克強(同)は、首相退任後も最高指導部に残るという見方もありましたが、全て裏切られました。
─ この要因をどう分析しますか。
國分 中国の情報統制が非常に強く効いていたことが、まず挙げられます。2021年に香港国家安全維持法が施行されて以降、中国は「閉鎖」されました。少しは流れるはずの情報が一切流れなくなったのです。
さらに、今回世界の予想が外れた最大の理由は、我々の合理性で物事を考えていたからです。多くの専門家は「習近平はおそらく、少しは党内のバランスを図るだろう」と、合理的に予測をしていました。しかし、それは習近平にとっての合理性ではなかったということです。
習近平にとっては、3期目突入ということで従来の任期を超えて、このあと自分に残りどのくらいの時間があるか、わからないわけです。それを考えた時に、自分の信頼できる部下だけを最高指導部に入れて、これからの5年、10年の統治を行うことにしたのだと思います。
このことを違う言い方をすると、過去の10年間は権力闘争だったということです。習近平が自分の権力を固めるための10年間で、この間、実は独自路線はさほど出てきておらず、むしろここから「習近平時代」が始まると考えた方が妥当なのではないかと。
─ この10年を振り返ると、経済成長が鈍化するなど、難しい時代でもありました。
國分 ええ。米国、日本、韓国との関係も難しいものになりましたし、巨大経済圏構想「一帯一路」も停滞しています。対外的に大きな成果はなかったと言っていいと思いますが、習近平にとっての最大の成果は「反腐敗闘争」だったのです。
鄧小平以降、「改革開放」で社会主義市場経済路線を進めてきましたが、党が最終的な許認可権限を持った市場経済ですから、政治腐敗がはびこりました。これを江沢民時代は実質黙認し、胡錦濤時代は権力が弱くて除去することができず、既得権益層を増やして腐敗が巨大化してしまった。そこに習近平時代が始まったわけです。
反腐敗闘争が、この10年間の最大テーマであり、習近平はここに注力してきたと。この時の最大ターゲットは「上海閥」と呼ばれる江沢民・曽慶紅(元国家副主席)グループでした。
─ この時の共青団派との距離感はどう見ていましたか。
國分 習近平は共青団派を反腐敗闘争に利用してきました。時に李克強の力も使ってきたわけですが、今回、最後に共青団切りをしたのです。つまり、反腐敗闘争というのは権力闘争だったということです。