「伝統的な情報を伝える紙が減少する中、『木を原料に何ができるか』という世界に行こうとしている」と話すのは、王子ホールディングス社長の磯野裕之氏。社会のデジタル化で新聞や印刷用紙が減少する中、eコマースの進展で段ボールなどの需要は増大。海外事業も成長を続ける。さらに、森林資源を原料にしたバイオマスプラスチックやバイオエタノール、医薬品開発など、これまでとは全く異なる領域も手掛ける。磯野氏が描く、これからの会社の姿とは。
【あわせて読みたい】三井化学と日本製紙がタッグ、紙とプラの両面性を持つ「バイオマス素材」開発エネルギー価格高騰が直撃 ─ 2022年2月のウクライナ危機以降、世界的に資源価格が上昇しています。王子ホールディングスの経営にはどういう影響が出ていますか。
磯野 それ以前の21年4月頃からエネルギーコストは上がり始めていました。その中で石油の指標の動向は、よく報道もされていますが、我々の事業ではボイラーで石炭も焚いていますから、一定の量が必要です。
石炭は20年の10月頃はトン当たり60~70ドル程度でしたが、21年春頃から100ドル近辺に上がり、このままでは秋口に150ドルくらいまで上昇するのではないか?と懸念していたところ、21年7月には150ドル、22年1月に200ドル超という状況になっていきました。
石炭価格が100ドル上昇すると、我々のコストは年間ベースで約120億円上昇します。21年末の価格で落ち着けばよかったのですが、ロシアのウクライナ侵攻で一時440ドル近辺まで高騰しました。20年下半期から約400ドル上がったわけです。
─ わずか1年ほどで急激な上昇ですね。この間、円安も進みました。
磯野 ええ。円安は輸入に効きますが、1ドル=110円で予算を組んでいたものが、一時150円まで行きましたからダブルパンチでした。他にも木材チップや、コンテナ代を含めた輸送費も上昇しました。足元では価格は高止まりしつつ、落ち着いてきています。
─ 上がったコストを、いかに製品価格に転嫁するかが、日本企業の大きな課題です。
磯野 当社には印刷用紙、段ボールなどの板紙、家庭用紙、感熱紙などの特殊紙など様々な商品がありますが、印刷用紙、板紙については、すでに2回の値上げを打ち出しました。
例えば、我々は段ボール用の板紙を製造し、加工会社に売りますが、グループ内の加工会社を含め、ある程度価格転嫁できています。問題は加工会社が各種メーカーなどのお客様に販売する時で、ここの転嫁に時間がかかっています。
4月から始めた1回目の状況を見ていると、半年くらいかけて少しずつ浸透していますが、2回目に関しては、お客様の抵抗感が強いという話が現場から上がってきています。
─ コスト高を反映する値上げでも、買う側からするとどうしても抵抗があると。
磯野 ええ。しかし、さらに難しいのが一般消費者向けの家庭紙です。トイレットペーパーやボックスティッシュなどの価格改定では、量販店と直接交渉をしているんです。
1回目の値上げについてはかなり数字が上がってきていますが、2回目についてはアナウンスしたものの、これからというのが現状です。