民主主義という価値観を主張するだけでは…
─ 中国は習近平体制が異例となる3期目に突入したわけですが、2023年の米中関係をどう占いますか。
森本 2023年の国際情勢は、2024年の前哨戦ともいうべき課題に直面することになると思われます。
2024年は1月に台湾の総統選挙から始まって、インド、ロシア、ウクライナ、欧州議会の選挙、そして、11月の米国大統領選挙など、政治の節目が到来します。主要国の国内政治は、国際政治の動向にも大きな影響を与えるからです。中国も2023年の春には全人代があり、習近平政権3期目を支える主要人事が行われます。
世界はすでに米中対立が軸となって、多様で複雑な国際関係を展開しつつあります。冷戦期の米ソ関係は大きく変質し、ロシアはウクライナ戦争の結果の如何にかかわらず、もはや、大国としての地位を維持することはできません。ロシアは中国と部分的に協調しつつも、米中の戦略的対峙関係を構成する際の関数にしかならないからです。
米国の重視する民主主義という価値観、中国の進める権威主義的色彩の強い覇権主義、この対立構造を取り巻く国際情勢は今後、さらに緊張関係が増大します。
─ 価値観と価値観の対立ということですね。
森本 現状をみると、民主主義体制国の人口は世界の3割、非民主主義体制国の人口は7割を占めており、価値観という基準を当てはめると、民主主義体制国は少数派です。従って、民主主義という価値観を主張するだけでは、国際社会でリーダーシップを発揮することはできません。
中国は民主主義体制の欠陥を指摘し、ロシアは民主主義体制を新植民地主義と批判し、グローバルサウス(南半球を中心とする途上国)をはじめとする途上国の支持を広げつつあります。ウクライナの人道問題を取り上げても、国連では賛成派が多数を占めることにはなりません。北朝鮮のミサイル発射に対して、制裁をかけようとしても安保理決議は成立しません。中ロの側に立つ国が増えてきていることは間違いないと思います。
中国は途上国に経済援助や投資を行い、中国軍のアクセスを確保しつつあります。東アフリカのジブチには中国軍の基地を建設し、ソロモンと安全保障協力協定を締結しました。中国艦艇が寄港できる国は増えています。
習近平国家主席は、このところ米国との関係が冷え込んでいるサウジアラビアを訪問し、ムハンマド皇太子と緊密な関係をつくろうとしています。米国は遅れて、島嶼諸国やアフリカとの関係を構築する努力を始めました。
2023年3月に、米国は第2回「民主主義サミット」を行う予定です。これが国際秩序と米国の外交政策に、どのような影響を与えるかについては、関心のあるところです。