2023-03-18

【わたしの一冊】『第三次世界大戦はもう始まっている』

『第三次世界大戦はもう始まっている』エマニュエル・トッド 著 大野 舞 訳 文春新書 定価858円(税込)

世界を戦争へと誘うアメリカへの文化とビジネスへの警戒



 2022年2月24日、突然のロシアによるウクライナ侵攻から1年が経つ。

 本書の初出は文藝春秋2022年5月号であり、インタビューの収録は侵攻からわずか1カ月後である。著者はシカゴ大学教授の政治学者ミアシャイマーの言説を引用して「ウクライナ戦争の責任と原因はプーチンやロシアではなく、アメリカとNATO(北大西洋条約機構)にある。」と主張した。

 ウクライナの加盟により、NATOが東に拡大することは「ロシアの死活問題」であるとロシアが強調し続けたにもかかわらず、英米はウクライナを武装化した。この政策こそが、世界大戦化させた原因と著者は指摘する。

 ロシアとアメリカ・NATOの軍事衝突により、ウクライナ問題はソ連崩壊後の国境修正という「ローカルな問題」を超えて、「グローバルな問題」と化し、国際秩序維持を願うアメリカにとっても「死活問題」となったと著者は言う。この事態が起きてしまったことにウクライナも西側諸国もロシアさえもが驚いている点で、第一次世界大戦と同様だと言うのだ。

 大半の日本人はロシア、プーチン憎しと、弱いウクライナへの同情心から西側諸国支持に傾いているが、家族システムや人口動態から歴史と現状分析を得意とする著者の見解では、ロシア・アメリカの長期戦の展開は予断を許さない。さらに、世界を戦争へと誘うアメリカへの文化とビジネスへの警戒を説く。

 アメリカの同盟国たる日本のリスクとして「不必要な戦争に巻き込まれるおそれ」を警告する。台頭する中国と均衡をとるためには、「日本はロシアを必要とする」との地政学的指摘は重要だ。

 台湾をウクライナに見立てれば、アメリカは一兵たりとも戦線に送ることはないだろう。台湾は国連加盟国でさえない。それでも日本の自衛隊は台湾のために中国と戦争を始めるのか。日本と世界を考えさせる1冊である。

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