2021-02-16

元防衛大臣・森本敏に直撃! バイデン政権誕生で世界秩序はどう変わる?(後編)

森本 敏 元防衛大臣・拓殖大学総長



防衛費の約5倍を研究開発費に投じる



 

 ── こうした指摘は初めてですね。EVが安全保障上の脅威になるというのは。

 森本 近い将来、戦闘機が電池で飛ぶ時代がやってきます。

 すでに現在、JAXA(宇宙航空研究開発機構)は電動飛行機を研究していますし、船もやがてガソリンではなく、モーターで動く時代がやってくる。そうなると、産業構造がガラッと変わります。

 だから、米国の問題であると共に、日本のこれからの3大テーマは、新型コロナウイルスとデジタル、グリーンなんです。

 ── この3つの課題への対策が重要なテーマであるということですね。

 森本 コロナは足元の感染症対策ということになりますが、残り2つのデジタルとグリーンは成長戦略そのものです。

 政府は2兆円の基金を立ち上げ、企業などに再生可能エネルギーへの移行を促す方針を掲げています。具体的には、次世代太陽光発電や低コストの蓄電池、カーボンリサイクルなど、最先端技術の開発。そして、水素と洋上風力などの再エネ分野に投資しようとしています。

 さらに、総理は施政方針演説の中で、向こう5年間の政府研究開発予算を30 兆円、官民の研究開発費の総額を120兆円投入して、積極的なイノベーションを促しています。

 この合計150兆円を5年で割ったら、年間30兆円の投入になる。すると、日本の防衛費の5倍くらいを研究開発費に投じるということですから、総理はかなり本気です。

 ── それくらい国家間の競争も激しい。

 森本 今は各国が研究開発にしのぎを削っていて、日本にも海外の資本が入ってきて、日本で出来上がった技術が奪われてしまう。だから、この気候変動問題というのは、単なる環境問題ではない。日本が生きていけるかどうかの問題なのです。

 また、途上国の技術開発が遅れると国家間の格差は広がり、地域の安定が損なわれる。

 その意味でも、気候変動問題は、国家の成長戦略と技術開発、安全保障が絡んでくる非常に重要な問題なのです。

 

もりもと・さとし

1941年東京生まれ。 防衛大学校を卒業後、航空自衛隊を経て、77年外務省アメリカ局安全保障課に出向。79年外務省入省。在米日本国大使館一等書記官、情報調査局安全保障政策室長など一貫して安全保障の実務を担当。 退官後、野村総合研究所主席研究員や慶應義塾大学や政策研究大学院大学などで講師・教授をつとめる。2000年拓殖大学国際学部教授、海外事情研究所所長を経て、16年3月総長就任。12年6月から同年12月まで民間人初の防衛大臣をつとめた。

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