2021-02-19

中部電力社長・林欣吾の「電力経営進化論」

林欣吾 中部電力社長

原子力への低依存度が事業の変革促す――。昨年、欧州で再生可能エネルギーの開発を手掛ける蘭エネコを買収した中部電力。従来の国内地域産業から脱皮し、海外展開を急いでいる。また、国内では慶應義塾大学病院と連携し、在宅患者の見守りや遠隔診療支援にも進出。電力スマートメーターという各家庭につながる〝ラストワンマイル〟の経営資源を有効に使おうというものだ。「エネルギーをベースに、新しいサービスや価値を提供したい」と意気込む。林氏の経営哲学とは――。

過去最大のM&A



「2050年に向けて、地球温暖化問題は待ったなしの課題。われわれエネルギー業界にとって、非常にチャレンジングな目標であり、実現に向けた課題は沢山あるが、必ずやり遂げなければならない」

 こう語るのは、中部電力社長の林欣吾氏。

 2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとするカーボンニュートラルを宣言した日本。日本で排出されるCO2(二酸化炭素)の約4割を占めるのが発電。それだけに脱炭素社会の実現に向けて、電力会社には大きな変革が迫られている。

 そうした中、近年、積極的なM&A(合併・買収)や提携が目立つのが中部電力である。

 その一例が、昨年買収した蘭エネコ。エネコはオランダ、ベルギー、ドイツなど、欧州で再生可能エネルギーの開発から電力・ガス小売りなどの事業を手掛けている。

 中電は昨年、三菱商事と共に約41億ユーロ(約5千億円)でエネコを買収。電力自由化や再エネ開発で先行する欧州での知見を持つ同社のノウハウを活用し、新たなサービスの創出を図る考え。三菱商事が8割、中電が2割を共同出資する形で、M&Aに1千億円を投じるのは中電の歴史の中で過去最大だ。

 中電は2019年度から23年度までの5年間で、累計4千億円以上を戦略的投資に充てる考え。今回のエネコ出資もその一環である。

「日本全体のCO2排出をゼロにするため、われわれがやらなければならないのは、まずは再エネの最大限の普及に取り組むこと。また、安全の確保と地元の同意を前提とした原子力発電所の有効活用が欠かせない。この他、再エネだけでは現実にもたないので、火力発電もイノベーションを前提として、CO2を発生させない方法やCO2の貯蔵などの方法を考える必要がある。発電手段も一つに頼るのではなく、やれることは全部やらなければならない」(林氏)

 同社は、昨年4月に持ち株会社で原子力と再エネ事業を手掛ける「中部電力」と、送配電事業の「中部電力パワーグリッド」、販売事業の「中部電力ミライズ」へ分社化。JERAも含め、一連のグループ再編が完了した。

 分社化の目的は三つ。一つは、事業の判断を早くすること。もう一つは、個社がマーケットや顧客により近い存在になること。三つ目は、それぞれの部署ごとに成果が〝見える化〟できるようになるので、PDCA(計画・実行・評価・改善)を回しやすくなるということだ。

 昨年8~9月にかけて、中部電力ミライズでは、コロナ禍で学校が休校となっている子供がいる家庭を対象に、在宅時に安心してエアコンなどを利用できるように、電気料金を2カ月間10%割引した。ミライズの社員が顧客から聞いた要望を基にメニュー化したもので、林氏も「現場がお客様の要望を吸い上げ、自分たちでメニューをつくるという提案があったことは非常に嬉しかった」という。

 また、同社は慶應義塾大学病院と連携し、在宅患者の見守りや遠隔診療支援に関する共同研究を実施。生活習慣病や心疾患などの患者の自宅に設置された電力スマートメーターやセンサーから、電力使用量や室内温湿度、心拍数などのデータを、患者の同意のもと収集。それを医師にフィードバックすることで、適切な生活指導や病気の早期発見につなげようとしている。


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