2021-02-22

コロナ禍をどう生き抜き、アフターコロナの医療体制をどう確立するか 答える人 地方独立行政法人 山形県・酒田市病院機構理事長 栗谷 義樹

栗谷 義樹 地方独立行政法人 山形県・酒田市病院機構理事長

全国の病院の5割以上が赤字という現実、今こそ医療の在り方を抜本的に見直さなければならない─。コロナ禍の今、突きつけられた課題である。酒田市立酒田病院の病院長として経営再建を行った実績を持ち、日本海総合病院(旧山形県立日本海病院)の黒字化にも成功した栗谷氏は「アフターコロナを見据えて持続可能な医療費の在り方・効率化を議論すべき」と指摘する─。

アフターコロナの見通しをセットで示すべき



 ─ 東京、大阪、愛知など、11の都府県で再び緊急事態宣言が発出されましたが、こうした政府の対応について、医師の立場からどう感じていますか。

 栗谷 昨年4月に緊急事態宣言を発出した時よりも今回の第3波の感染拡大、重症患者数は増大しており、感染状況の更なる悪化が社会的混乱を更に助長する懸念を考えると、緊急事態宣言は妥当な判断だったと思います。

 個人的には、もう少し早い時期に出した方が良かったと思いますが、それは結果を見ているから言えることで、緊急事態宣言が及ぼす経済活動への更なる深刻な影響を考えると、強力な規制との間でギリギリの両立を図らなければならなかった事情も理解できます。

 一方で、政府は新型コロナウイルスのパンデミック対策などで、今年度の第3次補正まで経済対策予算を打ち出しましたが、2020年度一般会計総は175兆円を突破して昨年比7割増、基礎的財政収支の赤字は90兆4千億円ほどまで膨らむそうです。不足を補う20年度国債発行額は100兆円を超え、国と地方の長期債務残高は1200兆円規模で国内総生産のほぼ2倍となっています。

 今後、歳入、歳出改革の本格的な取り組みは不可欠ですが、その時は早晩必ずやってきます。それ以前から抱えていた国の財政課題解決の時間軸を、コロナパンデミックは圧倒的に前倒しさせたといえると思います。

 ─ 本当ですね。財源は無限ではありませんから。

 栗谷 アフターコロナでは、医療介護も含む様々の歳出項目が見直しを迫られると思われます。このまま高齢化に応じて医療費が膨らむと、2045年には70兆円を超えると予想されています。

 昨年末に厚生労働省が発表した18年度の国民医療費は過去最高の43兆円でした。高額医薬品などの登場でただでさえ医療費高騰は課題になっていますが、増加する一方の医療費に対し、健康保険組合などの支払い側能力、公費を含め、継続対応が可能とは到底思えません。

 ― もともとは人口増加時代につくられた制度設計ですからね。

 栗谷 人口増加と市場拡大を前提に出来た時代の制度は、今後の人口減少、少子高齢化というこれまでと逆回転の時代になって前提条件と乖離が生じ、従来のままでは支えきれなくなってきた。高齢人口増加による医療費増、生産年齢人口減少による税と保険料の減収だけをとってみても、国民皆保険制度を現行のまま維持するのは極めて困難と考えざるをえません。

 かつて、日本の世界のGDP(国内総生産)に占める割合は1995年当時17%でした。今は5%程度です。この低下はそのまま世界における国の競争力低下と関連しており、経済成長率低迷と社会保障の財源不足にそのまま繋がるので、我々はそうした事実に向き合うことからまず始めないとならないと考えています。

 ─ もう少し科学的、合理的に議論を進めていく必要があると。

 栗谷 楽観的なシナリオで何とかなるだろうでは、後世の若い人達はたまったもんじゃありません。医療は病の治療、命を救うという、反駁しようのない基本インフラであるがゆえに、堅い岩盤に守られた業界ということはあったと思います。ただ、その分、変化に乏しい、生産性が低い分野でもあるので、この改革もコロナ後は待ったなしだと思います。

 生産性向上に重要なものとして、医療情報の共有はその一つだと思います。

 ― 情報を共有化することによって、生産性向上を促せと。

 栗谷 ええ。厚生労働省は、地域療構想、医師・医療従事者の働き方改革、医師偏在対策を「三位一体改革」の三項目として推進していくと表明しています。医師の働き方改革により、時間外労働上限規制適用などが2024年から始まります。

 これが現在の官民含めた病院概要が現在と変わらないまま実施されれば、医師不足の特に地方の病院などは、規模に関わらず存続の瀬戸際に立つでしょう。現実には対応できない病院は相当数ありますから、制度施行までのこの3年で統合再編やM&A(合併・買収)が、かなりの勢いで進む可能性があります。

 そうなった時に、病院の組織としての生き残りをどう考えるかという話と、地域医療構想の実現を、どのように整合性をつけるのか、課題は大きいです。これらをはじめとして制度改正はこの数年で相当進むでしょうから、与えられた条件、環境で地域の未来図をどう描くかが、それぞれの地域で問われているのだと思います。

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