2021-02-25

【水素社会に向け、注目集める産業ガス】国内需要頭打ちの中、売上高は10年で2倍に拡大 なぜ、日本酸素HDはグローバルな再編で勝ち残れたのか?

日本発ガスメジャーとして、世界3位に肉薄する4位のポジションとなった日本酸素ホールディングス


事業会社のトップは
HDの取締役も兼任

 買収合戦で勝ち残った日本酸素HDだが、その渦中、同社をカジ取りしてきたのが現社長CEOの市原裕史郎氏。

 三菱ケミカルHDは14年5月、日本酸素HDを傘下に収めることで合意し、同年11月、同社の50・57%の株式を取得。基本合意書では自主自立を約束した。その変革期の中での14年6月、市原氏は社長に就任した。

 自主自立の約束どおり、今も9人の取締役のうち、三菱ケミカル出身者は常勤と非常勤の取締役が各1人、4人の監査役のうち非常勤監査役が1人いるのみ。経営の主導権は日本酸素HDが握っている。

 自主自立で成長してきた日本酸素HDだが、日本板硝子など、大型買収を成長につなげられない日本企業が多い中、なぜ同社のM&Aは成功したのか──。

 市原氏は「個人的な考えですが」と前置きしながら、次のように語る。

「お金を出せば誰でも(事業を)買えます。問題は買った後、どう経営していくかということ。その中でラッキーだったのは、アメリカのCEOを務めているトーマス・スコット・カルマンがわたしに対して非常にロイヤル(忠誠)で、わたしのことを信頼してくれていること。例えば、予算などの目標設定を彼は一度も外したことがない。要は『予算というのはわたしに対するコミット』だと。したがって『絶対に守る』と。彼はそれを10年来守り続けている」。

 そして、「ヨーロッパ事業を買収するまで、当社の成長の原動力はアメリカだった。米国内のM&Aも含めて、彼によるところがとても大きかった」と功績を称え、「わたしの下でわたしを信頼し、きちんと経営できる人物がいた。それが、とてもありがたいことだった」と語る。

 海外事業の成長で、今では売上も利益も海外が国内を上回る。その現状に適した体制にすべく、2020年10月、〝社名変更〟と〝持ち株会社〟への移行を行った。

 現在、日本酸素HDの事業は日本、米国、欧州、アジア・オセアニアのガス事業と、魔法びんのサーモス事業の5つ。

「大型投資の9割方が海外案件の中、それらの決議を大陽日酸(日本)の経営会議や取締役会を通す必要があるなど、日本の事業会社の1部門としてやっていく限界が出てきた」のが持ち株会社に移行する最大の理由だ。

 そこで、「権限を委譲した上で経営判断を時間をかけずにできるようにした」。

 持ち株化の1年前から、日本(大陽日酸)、米国(マチソン・トライガス)、欧州(ニッポンガスユーロHD)の事業会社のトップは親会社(現HD)の取締役に就任。
「(事業会社のトップが)グループの大方針にボードとして議論に加わり、自分たちの持ち場に帰ってそれを実践する方式にした。そこで、この3社に関しては決議、決済できる権限を大幅に増やした」

 だが、「米国や欧州の会社のボードにわたしも入っているので、いろんな形で係わり合いながら、ガバナンスに不都合が起きない体制を取っている」と市原氏は説明する。

 社名変更は一部で〝先祖返り〟と誤解された向きもあるが、「欧州事業の買収が確実になる中で、社外取締役から『ここまでグローバル化が進むのであれば社名を変えるべきではないか』との提案があった。世界の同業はみな海外。そこで、皆で議論し、『日本をオリジンとする会社が、このポジションにいるということを、われわれのアイデンティティとして社名に冠するのがいいのではないか』」と現社名に行きついた経緯を語る。

なぜ今、丸紅は水素に注目するのか?


Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事