「経営の独立性は担保されている。
三菱ケミカルHDグループ入りで非財務関連の価値観も浸透した」
── コロナ禍の業績への影響について聞かせて下さい。
市原 地域によって濃淡はありますが、相当影響を受けています。
日本は産業ガスのマーケット自体の伸びが大きくないので影響は他地域ほどありませんが、前期まで成長を支えてきたアメリカ、それから2018年に買収したヨーロッパではかなりの影響が出ています。アジアは結構な数の国に進出していますが、1つ1つの国の経済規模が小さいので、トータルでの影響度はそれほど大きくありません。
産業ガスは急激に伸びることがない代わりに、100だったものが0近くに落ちることもありません。唯一、リーマンショックの時は需要が大きく減少しましたが、今回はそこまでの影響は出ていません。4︱6月が底で、7―9月以降は回復基調になっています。
── 親子上場問題もある中で、三菱ケミカルHDグループの1社である意味は?
市原 基本合意書で、当社の自主性を尊重し、全面的に支援および協力をすることを約束しており、自主独立で事業を運営しています。経営陣の選任も独立性を担保しており、親会社の影響を受けることはありません。
グループ入りが決まった当時(2014年5月)、わたしは社長ではなかったのですが、三菱ケミカルHDグループは当時社長だった小林喜光さんの考えに沿って〝KAITEKI経営〟をされていました。従来のような財務に関わる数値だけでなく、非財務の目標を経営に取り入れて、外に向かっても発信していくという考えです。
現在はSDGsやESGで非財務関連の取り組みが重視されています。KAITEKI経営の本質にも、世の中の動きがついてきて「こういうことか」と実感しています。
世界28か国から、産業ガスメーカーなど94の企業や団体が参画するIOMA(国際酸素製造者協会)では、そのボードの中でもサステナビリティについて議論をするのですが、三菱ケミカルHDグループ入りした際、「ぜひ、チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)を置いて下さい」と言われ、同じグループの企業として、そうした活動で引っ張ってもらっているなと思います。
とかく現場は実務に追われ、なかなか非財務情報に目を向けることが難しいことが多いのですが、小林さんの先んじた発想に基づく企業経営の価値観を、われわれにも浸透させてくれていることは、すごくありがたいなと思っています。
日本酸素ホールディングス社長CEO市原 裕史郎いちはら・ゆうじろう1951年11月東京都生まれ。74年慶応義塾大学商学部卒業後、日本酸素(現・日本酸素ホールディングス)入社。2005年執行役員、10年常務取締役、12年専務、13年副社長、14年6月社長CEO。