職務を明確にするジョブ型雇用が日立やNEC、三菱ケミカルホールディングスなど大企業で進んでいる。終身雇用を前提としたメンバーシップ型からの転換だ。背景にはグローバル競争、生産性向上、新事業育成で通年採用が増え、「これができる人材がほしい」という企業の明確な雇用ニーズがある。だが、ゼネラリストとして育てられた社員には「手に職がない」という課題もある。もともと派遣は専門職で、ジョブ型雇用の側面があった。その潜在力を掘り起こしたパーソルの取り組みとは─。
年間約30万時間の
業務を自動化
「新卒でテンプスタッフに入り、数千人の派遣スタッフさんと接してきましたが、ずっと気になっていたことが、彼女たちが一様に『手に職がない』と言うことでした」
こう語るのは、パーソルテンプスタッフ・特別法人営業本部・シゴトデザイン部・RPA営業推進課マネージャーの小野田聖子氏。
40代前後と同世代の派遣スタッフも多く、「彼女たちの悩みが自分の悩みと重なった」と振り返る。スキルへの不安から英語や簿記などの資格取得を目指す彼女たちを見て「本当のスキルとは? 」「自分にしかできない仕事とは何か? 」を考えたという。
そんな頃、出会ったのがRPA(Robotic Process Automation)。RPAとは、人がやっている作業をロボットに置き換えて生産性向上を図るツール。
「RPAは派遣スタッフさんがやっている仕事だなと。彼女たちが作れればすごくいい。しかも、事務作業の可視化ができるので、『手に職がない』という悩みも解決できる」
そこで、小野田氏が2018年7月に立ち上げたのが、「パーソルが育成したRPA人材を世に送り出すサービス」。派遣スタッフがRPAのスキルを身に付け、企業のRPA導入を推進する『RPAアソシエイツ』というものだ。
RPAは生産性向上の流れで、大企業の51%、中小企業の38%が導入している。
パーソルホールディングスも17年5月に「RPA推進室」を新設し、RPAの導入で業務を自動化。2年間で300近い案件にRPAを導入、約30万時間の業務を自動化させた。
例えば、派遣スタッフの契約延長もしくは終了の手続き業務。
派遣は3カ月更新が多いため、①基幹システムから対象者のデータをダウンロード、②更新か終了かをチェック、③結果を基幹システムに戻し、④入力、⑤契約書を出すという流れになる。
従来は何万人分を各事業所で行っていたが、ロボット化すると、導入前は17人で月3750時間かけていた業務が4人で月285時間に短縮できた。
どの企業でも事務の仕事は〝エクスプローラー〟からデータを引き出し、〝エクセル〟で加工・修正し、フォルダに格納もしくは〝メール〟で送信という手順が多い。複数のアプリケーションを使って業務を行うため、それを1つにつなげて自動化するのがRPAということだ。
パーソル以外にもRPAの導入サービスを手掛ける企業はあるが、パーソルの強みは「派遣社員が導入を行うこと」と小野田氏は話す。
日本企業は仕事が属人化していることが多く、請求書の出し方1つでも企業や部署によってもやり方が違うこともある。
RPAの導入には、こうしたバラバラな手順を標準化することが必要だが「派遣の方はいろんな職場を経験しているので、RPAを活用して最も効率的な業務のやり方に変えることができる」という。
また、派遣社員として社内にいるので、作って終わりではなく、導入後、社内に使い方を伝授したり、変化する企業の課題に対応してロボットが動き続けるようにメンテナンスをしたり、書類の文字や数字を自動入力する「AI-OCR」や問い合わせに自動対応する「チャットボット」など、新たなツールの導入を提案し、さらなる業務効率化にも貢献。パーソルの〝第三の営業担当者〟という側面も持つ。
「キャリアチェンジやジョブチェンジと言うと、まったく違う仕事をやるイメージですが、今までやってきた経験や強みを価値につなげることが大切なのだと思う」小野田氏は語る。