2021-03-24

100年前、体温計国産化で創業、 カテーテル・エクモで存在感─  医療機器大手 テルモ・佐藤慎次郎の 「変革期にこそ、的確な ソリューションを!」

佐藤慎次郎・テルモ社長CEO


ワクチン接種の
注射針生産に注力

 今回のコロナ禍ではワクチン接種が欧米やロシア、イスラエルなどですでに始まっている。

 日本政府は米ファイザーから1億4400万回分、英アストラゼネカから1億2000万回分のワクチンを購入することにしている。さらに米モデルナから5000万回分を購入する計画を立てている。

 塩野義製薬などは現在治験中で、国産ワクチンの登場も待たれるところだ。

 国内のコロナ禍第3波は収束し始めたとはいえ、今後、爆発的感染がいつぶり返すか分からない状況は続く。そのためにも、早目の接種が求められており、肝腎の注射器の増産も急がれる。

 貴重なワクチンは1瓶で5回分の接種とされてきたが、注射器内に液が残存しない工夫をすれば、6回分が打てることが分かった。

 テルモやニプロなど注射器メーカーへの増産要請が政府からも相次ぐ。

 テルモはこれまでも6回分を接種できる注射器を生産してきていたが、これは針が短いタイプ。米ファイザー製ワクチンは、上腕に筋肉注射で接種するもので、針が長い注射器に切り換えなくてはいけないということで、政府の承認が得られ次第、山梨・甲府工場で生産設備を改造して生産を急ぐ方針。

 ニプロもタイ工場での増産を行う予定で、ワクチン接種が国民の大半に届けられる体制づくりは急ピッチで進む。

100年の歴史の中で
『4つの節目』に遭遇

 テルモは100年の歴史の中で、大きく4つの節目を迎えている。その節目節目に同社のトップはどう対応していったのか。

 1回目は前述の体温計の国産化。ドイツからの輸入に頼っていたら、第1次世界大戦勃発で輸入がストップ。国産化しなければ、国民の命と健康を守るうえで大事な医療に支障が出るということ。

 2つ目の大きな節目は1960年前後に、使い切り(ディスポーザブル)の注射器を導入したのもテルモが初めて。
「今回のコロナ禍で、1瓶で6回接種できる注射針やシリンジ(注射器の筒)が話題になるのですが、当時は使いまわしの注射器が主流でした。アメリカではすでに1回1回感染防止のためにやっていたのを、初めて日本でそういう使い切りの注射器を導入した」

 医療現場からすると、「もったいない」とか、「面倒くさい」といった反応が強かった。当時は、感染のリスクということが医療現場にも、また国民の間でもそう強く認識されていない時代。
「それが、本当にもうアメリカのスタンダードに変わる時代が来ると。それを見越してテルモの先人たちは動いていきました」と佐藤氏。

 とにかく、時代の転換期という節目にあって、医療の現場を支えようという同社の動き。

 この時期、同じディスポーザブルの輸血バッグの開発も同社は担う。テルモは日本赤十字社と連携し、献血時の血液の採血・運搬などのプロセスに関わってきた。

 それまで採血されたものをガラス瓶にためて運んでいたわけだが、これだと非常に危険。

 そこで、ガラス瓶をやめて、バッグ化して輸血専用のバッグをつくったのもテルモである。

「これは日本赤十字社とか皆様から要請があったときに、ぜひうちでやりましょうとお引き受けしたものです。今だと使い切りの注射器とか、プラスチックのディスポーザブル輸血バッグは誰でも当たり前だと思うんだけれども、1950年代から60年代に日本にも入り始めた時期はまさにチャレンジだった」

カテーテル治療で
医療市場を席巻

 そして、1980年代に登場するカテーテル治療。カテーテルとは、医療用に用いられる柔らかい管のこと。胸腔や腹腔などの体腔、あるいは消化管や尿管などの管腔部、さらには血管などに挿入し、体液を排出したり、薬液、造影剤などを注入したりするという治療が登場。

 検査段階でも、例えば心臓カテーテル検査のように、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈症状を診断することができる。

 このカテーテル診断・治療の手法は米国で開発されたものだが、テルモは〝ガイドワイヤー〟も先駆けて開発。診断・治療用カテーテルを血管内の目的部位へ誘導(ガイド)していくワイヤー。これは血管の中を滑らかに進むということで医療関係者の評価を高めていった。

「血管の中に最初に入れるガイドワイヤに関しては、われわれの技術が市場を席巻して世界のスタンダードになりました。みんなに使ってもらいながら、新しい治療を開拓していったところがあるので、そういう中での役割は果たしたかなと思います」

 カテーテル診療・治療領域でテルモが確固たる基盤を構築できたのも、こうした〝きめ細かい〟技術開拓があったからだ。
「いつ使っても、どこで使っても、同じという品質をちゃんと毎回生産を通じて担保できるということ。これは医療機器をあずかるわれわれにとって、非常に大事なことだと思っています」

 そして今回のコロナ禍である。医療機器を担う立場として、どう対応していくのか。

コロナ禍対応は
基本3原則で

 世界の新型コロナ感染者数は2月22日現在、1億1136万人強、死者は246万人強を超える(米ジョンズ・ホプキンス大学調べ)。

 日本の感染者数は42万人強、死者は7549人(横浜クルーズ船を含む)。欧米各国と比べると、感染者、死者数とも少ないが、油断は許されない。緊張感は続く。

 テルモは世界160か国以上で事業を展開、従業員数は約2万6000人を数える。海外と国内の従業員数は8対2で海外のほうが多い。コロナ禍はパンデミックであり、文字どおり地球規模で対応していかねばならない課題。

 今後、どういう基本スタンスで臨んでいくか─。

「われわれは昨年初め、基本3原則を提示しました」と佐藤氏は次のように続ける。

「1つは、まず従業員の皆さんが安全を確保してくださいと。命を確保してくださいと。アソシエイトの命と安全を第一にするということです」

 アソシエイト(Associate)。仲間、同僚という意味だが、企業経営は「人」の集団。社員1人ひとりが使命感を持ち、医療現場を支える役割を発揮していく同僚・仲間ということで、同社は従業員をアソシエイトと呼ぶ。

「最近、パーパス(存在意義、目的)という言葉がよく使われますけれども、われわれの企業理念は『医療を通じて社会に貢献する』ということ。われわれの場合は、非常にパーパスが明確です。今回のコロナ禍でも、パーパスの重さ、使命を肝に銘じながら頑張りたいと」

 そうした使命を担うアソシエイトは自分の命と健康を守りながら、グローバルに、そしてローカル(地域社会)で仕事をしていこう」との佐藤氏の呼び掛けである(インタビュー欄参照)。

本誌主幹・村田博文

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事