2021-03-09

ユニゾと香港ファンドのやり取り続く 「債務超過だ」、「いやそうではない」

ユニゾホールディングスが入居する「馬車道ウエストビル」(横浜市中区)

2020年に日本の上場企業で初めて、EBO(従業員による買収)で非上場化したユニゾホールディングス。だが、社債を保有する香港ファンドから、その財務内容に疑義を申し立てられるなど、経営の厳しさが表面化。その動向は社債を保有、融資をしている地銀、信金、信組の経営にも影響するだけに、その行方が注視されている。

香港拠点のファンドが「書簡」を送付


 日本の上場企業で初めて、EBO(従業員による買収)で非上場となったユニゾホールディングス(山口雄平社長)を取り巻く環境が厳しさを増している。

 ユニゾHDを巡っては、2019年7月に旅行大手・エイチ・アイ・エスが敵対的TOB(株式公開買い付け)を仕掛けたが、フォートレスやブラックストーンといった米ファンドが「ホワイトナイト」候補として名乗りを挙げた。だが条件面で折り合わず、最終的にユニゾHDの従業員と、米ローン・スターが共同で設立した会社「チトセア投資」にローン・スターが資金を貸し付けた上でEBOを実施、20年4月に成立した。

 このユニゾHDに対し、21年2月、同社の社債を保有する香港拠点のファンド、アジア・リサーチ・アンド・キャピタル・マネジメント(ARCM)が書簡を送付した。この書簡によるとARCMはビデオ会議でユニゾHDに対し「債務超過にあることを危惧している」と伝えた。

 その理由として、ユニゾHDの2020年9月末時点のバランスシート(貸借対照表)に計上された短期貸付金約2160億円がチトセア投資に対するもので、これは同社からローン・スターへの返済に使用された。だが、チトセア投資はユニゾHDが将来生み出す見込みのキャッシュ・フローに基づく配当に依存する存在で、独立した弁済手段を持っておらず、貸付金には実質的な資産価値がないと見ていることを挙げた。

 そして、債務超過でないことを証明する情報が公開されない限り、「ユニゾの債権者保護のために然るべき更なる措置を講じることを予定している」とした。

 対してユニゾHD側は「監査を受けた報告書で開示している通り、資産超過であり支払いも問題ない。所有不動産の含み益もある」(代理人を務めるTMI総合法律事務所)と反論。

 ARCMが記した「措置」とは何を意味するのか。市場関係者の間では2月末時点、最終的にはARCMによる更生手続の申立ではないかと見られているが、適用されるのは支払い不能と債務超過が認められた時。そのためユニゾHD側は「仮に申立をしたとしても、裁判所は認めないだろう。資産超過であることを示す資料を出す自信もある」(TMI総合法律事務所)と話す。

 また、ユニゾHDの社債は21年5月と11月に各100億円の償還が迫るが、債務不履行を懸念する声も聞かれる。償還に備えてユニゾHDでは金融機関に借り換え要請をしている模様。

 ここで焦点となるのが、ユニゾHDに融資をし、社債を保有しているのが地方銀行や信用金庫、信用組合であること。

 元々、ユニゾHDは旧・日本興業銀行(現・みずほ銀行)系の不動産会社で、歴代社長や役員を送る親密な関係だった。だが、10年に元みずほフィナンシャルグループ副社長の小崎哲資氏が社長に就任して以降、風向きが変わる。

 小崎氏は、02年にみずほホールディングス(当時)が不良債権処理による巨額赤字計上で、公的資金優先株の配当原資が枯渇しかける中、持ち株会社の上に持ち株会社をつくる「二重持ち株会社」方式で危機を回避、03年には取引先企業3500社を引受先とする「1兆円増資」を主導した人物。

 ユニゾHDは13年以降、5年で4度の公募増資を実施。増資はオフィスやホテルの取得のためだったが、急激な希薄化で株価が下落。個人や外国人株主が増えた一方で、旧興銀系を中心とする企業株主との関係は薄れた。これは「みずほ離れ」を進め、独立色を強めたい小崎氏の意向も反映したと見られている。

 これ以降、みずほとの関係が薄れたことや事業の状況を見た他のメガバンクや信託銀行は融資額を減らしたり、担保設定をするなどの対応を取った。

 だが、地銀等はみずほの親密先としてのユニゾHDへの融資を継続。その多くを地銀・信金・信組が貸しており、市場関係者によると無担保、貸倒引当金を積んでいないといった金融機関もあるという。また社債を多く保有するのも信金・信組の他、一部地銀だ。

 融資元の1行、北國銀行は担保設定や貸倒引当金の状況について「個別案件についてはお答えしかねる」と回答した。

 ユニゾHD向け融資が回収不能となれば融資している各金融機関は当然、損失を被り、場合によっては赤字に陥りかねない。ユニゾHDの社債も発行価格100円に対し、足元で約20円と大幅に下落しており、取得額次第で減損処理が必要になる水準。

 帝国データバンクによれば近年の倒産で債権者名簿を入手すると、貸出上位には地銀・信金・信組の名が並ぶことが多いという。メガバンクが退いた後、第1地銀、第2地銀、信金・信組の順番に入ってきて、残った金融機関が損失を被っている。

 EBOの際にユニゾHDが大義名分としていたのが「事業運営の維持と従業員の雇用が確保できる体制」づくりだった。

 だが、現状はどうか。東京・八重洲の旗艦ビルを住友不動産に売却するなど、優良物件を次々売却。そのため売却益で見た目の業績はいいが、資産売却が相次ぐ状況になっている。また、ユニゾHD単体の従業員は20年3月末から同年9月までの間に異動と退職で144人から50人に減少している(帝国データバンク調べ)。

 ユニゾHDは「情報開示には反省すべき点もあった」(TMI総合法律事務所)としており、今後金融機関、社債権者に対する情報開示の姿勢を改めることも求められる。今回の件はユニゾHDのEBOの意味、地銀のリスク管理能力など、様々な問題を投げかけている。

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