2021-03-19

【ずいひつ】ケータイコミックの父・BookLive社長の淡野正氏が語る「電子コミック販売10年」

いつでも、どこでも気軽にコミックを読める─。

 10年前の2011年2月17日、当社が運営する総合電子書籍ストア「ブックライブ」が開始して今年で10周年を迎えました。この電子書籍業界の19年度での売上高は約3400億円。そのうちコミックの比率は9割弱を占めるほどに成長しました。

 当初、携帯電話電子コミックを始めた頃は「紙のコミックを電子化して携帯電話で閲覧するとは、どういうつもりだ? 」といった反発もありましたが、当社の「ブックライブ」では累計配信タイトルが55 万タイトル、累計配信冊数も110万冊を超えるまでに成長。コロナ禍では、自宅でスマートフォン等を通じてコミックを読む読者が増加し、会員も若年層だけでなく、高い年齢層の方々が目立っています。

 ケータイコミックの優位性はいつでも、どこでも読めるという観点から、時間軸に左右されない点にあります。例えば、電車で1駅移動する間にコミックの1話分が読めたり、映画やドラマと違って途中で閲覧をやめざるを得ないということもない。

 書店さんも本棚に書籍を並べる手間がなくなり、ポップやポスターを貼る手間も省けます。作家さんなどのクリエイターにとっても自著を読んでもらえるチャンスが増えます。例えば、今では主婦が子育ての合間に描いたコミックがヒットしているほどです。デジタル技術の進化に伴って、コミックの電子化は様々な点で経済効果を上げているのです。

 ただ、紙の出版がなくなることはないと思います。例えば、電子書籍ストア「ブックライブ」を開始した年の翌月、東日本大震災が発生。電気・ガス・水道などの社会インフラが止まり、物流網の寸断で食料や衣類といった生活環境が一変しました。そんな苦しい中でも1冊の『週刊少年ジャンプ』を求めて子供たちが書店に列をなし、回し読みして元気をもらえたエピソードは有名です。紙でもデジタル
でも関係なく、コミック自体が〝生きる糧〟になっているのです。

 私は凸版印刷入社後、印刷物などの製造現場のシステム化の企画・設計に従事。出版物を印刷する受注型のビジネスモデルが主流だった印刷業界で、1997年に立ち上がった新規事業が電子書籍だったのです。

 当時はまだガラケーの時代でしたが、2000年頃にパームやブラックベリーといったPDA端末向けのコンテンツの1つとしてコミックを配信したところ、多くの人から支持を得ました。これで私は「電子コミックは売れる」という手応えを感じたのです。

 転機となったのが2003年。KDDI(au)からパケット定額制を打ち出すために書籍コンテンツの打診があったのです。その後、NTTドコモやボーダフォン(当時)も参入。ケータイコミックは徐々に市民権を得るようになっていったのです。

 ケータイコミックは書籍の売り方も変えました。全国一律の価格体系から第1話無料、または値引きなど、読者の手に取ってもらうために敷居を下げることに貢献。これはクリエイターが持つオリジナリティの掘り起こしにもつながっているのです。

 さらにケータイコミックは海外輸出への可能性も秘めています。紙や物流、輸出のための手続き等が不要となり、クリエイターが自ら海外に発信することも可能な時代になったのです。

 コミックは絵と言葉とのハーモニーです。小説や音と一体化した映画とはまた違う魅力を持っています。登場人物のセリフからは言霊を感じることができます。コミックをもっと国内外に広げていくためにも、電子コミックの普及に尽力していきます。

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