2021-03-23

SMBC日興証券社長・近藤雄一郎の「資産運用」戦略 「勝負は人間力、証券営業のプロたれ!」

近藤雄一郎・SMBC日興証券社長

「お客様との接触頻度が下がる中で選んでいただける存在になるために『プロたれ』と言っている」─近藤氏はこう語る。自ら年金を運用する「確定拠出型」のニーズが高まるなど運用で自己責任の流れが強まる。その運用を担う証券会社は「プロ」でなければならないという近藤氏の決意。従来以上に「人」の持つ能力が勝敗の鍵を握るが、その「人」をどう育てていくのか──。

「リスク」を把握する重要性を訴えて


「『困難はそれを乗り越えられる者にしか与えられない』、『乗り越えられない壁はない。みんなで一緒に乗り越えていこう』と社員に訴えてきた」と話すのは、SMBC日興証券社長の近藤雄一郎氏。

 日本において長年の課題である「貯蓄から資産形成へ」の実現は道半ば。特に若い世代にいかに投資に目を向けてもらうかに、各社とも知恵を絞る。

 ただ、コロナ禍で株価が急落した2020年3月以降、個人型確定拠出年金への加入が増加。確定拠出年金は自らが運用先を選ぶが、個人も自己責任で年金を運用する意識が高まる。

 SMBC日興証券は20年3月からNTTドコモと提携、自社の投資情報メディアである「日興フロッギー」を通じて、ドコモの共通ポイント「dポイント」を活用して株式投資を行えるようにした。

 日興フロッギーでは100円から100円単位で株が買えることに加え、ドコモポイントでも100ポイント単位で買える。導入前(1月から3月23日の1日当たり平均)と導入後(3月24日から5月29日の1日当たり平均)を比較すると、新規口座開設件数は約7倍に増加している。約定金額は約2・3倍、約定件数は約3・3倍とそれぞれ増加。

 さらに「お客様のニーズがある商品は数多く提供していかなければならない」(近藤氏)ということで、来年度からFX(外国為替証拠金取引)を取り扱うことを検討している他、顧客への投資アドバイスを行う「ロボアド」にも注力していく。

 21年1月19日には、預かり資産1000億円超のロボアドサービス「THEO」を展開する、株式会社お金のデザインが行っている第1種金融取引業における顧客の証券口座、それに関する権利義務を会社分割で承継することを発表。SMBC日興証券ダイレクト戦略部長の丸山真志氏は「本邦ナンバーワンのロボアドサービスを目指す」と強調した。

 SMBC日興証券は20年9月に投資戦略助言や情報提供を高度化する狙いでCIO(ChiefInvestment Office)室準備室を設置。21年3月以降に向けて人員を拡充し、どういったサービスを提供していくかを検討中。

 強みの1つは、米資産運用会社・ブラックロックのグループ会社が提供するポートフォリオ・リスク分析プラットフォーム「Aladdin」を活用したリスクマネジメントサービスを持っていることだが、従来は金融資産3億円以上の顧客に提供していたものを、21 年4月以降に預かり資産1000万円以上の顧客を対象に、簡易版のサービスを提供していく。

「まずリスクを知っていただく。日本ではリスクというと『危険』という言葉になりがちだが、そうではなく『変動幅』。お客様に自らの状況を適切に把握していただけるようにする」と近藤氏は話す。

 多くの場合、大きな資産を持つ顧客は、「相続用」、「毎年の贈与用」、「不動産購入用」、「旅行・レジャー用」といった形で、漠然とした形でも、その資産の使い道を決めている。

 そして、用途でリスクは変わるため、そのリスクを把握した上でのポートフォリオの構築が重要になるが、前述のように漠然としている人が多いのが現状。

 そこで21年秋を目途に、既存の投資一任サービスである「日興ファンドラップ」の機能を高度化させる。SMBC日興証券が顧客の資産ニーズに合わせて複数のポートフォリオを提案、それを保有することを可能にする。まずは投資信託を選ぶ形から始め、株式やETF(上場投資信託)などへ対象を拡大していく。さらにその後、個別の株式など全ての商品を一括管理して一任運用する「新型ラップ口座」の開発に着手する。

 この新型ラップでは、売買の度ではなく、預かり資産に応じて一定の報酬を得る手数料のあり方などを検討している。現在進めている中期経営計画の期間中に具体策を検討する。

「手数料をどういただくかに関しては、お客様によって残高、成功報酬、アドバイス量など考えが違う。複数出てくる可能性があるが、今後手数料体系は考えていきたい」(近藤氏)

 従来、個人向け営業では売買時の手数料収入が中心だったが、ここ数年は各社が新たな手数料体系を模索している。

 SMBC日興証券も運用・管理業務や運用アドバイス提供の対価として、あるいは資産残高に対する手数料を得たり、希望する顧客については運用成果に基づく成功報酬も併用した手数料体系を用意することも検討。

 現状、SMBC日興証券の営業部門の売上高に占める手数料の割合は2割前後だが、今後5割以上に高めていくという目標を持っている。

「銀・証」連携の今後


 今も日本では個人金融資産約1850兆円のうち、約1000兆円が預貯金にとどまっている。これをいかに証券市場に導いていけるかが大きなテーマ。

 三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)の一員であるSMBC日興証券は「銀・証」の連携をどう生かすかが課題。「銀行のお客様に〝川〟を渡ってもらい、運用の側に来てもらうためには、自らのリスク許容度がどれくらいなのかという認識を持ってもらうことが大事」

 SMBCグループの中では、資産運用ビジネスはSMBC日興証券を中心に行っていくという方針が打ち出されている。「マーケット情報、商品をグループ一体で機動的に提供し、資産運用人口を増やしていきたいと考えている」(近藤氏)

 現在、金融庁、金融審議会で銀行と証券の垣根、「ファイアーウォール規制」の存廃が議論されている。今は既存のルールに基づいた銀・証の連携だが、仮に規制が撤廃されると、さらにスピード感をもった連携ができるようになる可能性がある。

「変化が激しく、スピードが早くなっている。スピードを意識した経営をしていきたい」と近藤氏。コロナ禍はそのスピードをさらに加速させている。

 振り返れば、近藤氏は20年4月に社長に就任したが、直後に緊急事態宣言が発令され、本社・支店含め最大3割出社とし、多くの社員が在宅勤務、自宅待機となった。

 その中で、社員とコミュニケーションを取るために、近藤氏はメール、手紙を書いたという。社員本人のみならず、その家族も、特に4月、5月は先が見えず不安の中にあったため、近藤氏はそれに対し「証券会社は市場の『ゲートキーパー』であり、そのために流動性を絶対になくしてはいけない。そういう誇りある仕事をしている」というメッセージを送ってきた。

 コロナ危機に対応するため、グローバルで大規模な金融緩和、財政出動が行われた。そのため、社会の混乱に比べて、一時の急落はあったものの株式市場、為替市場ともに堅調な展開となった。特に債券のプライマリー(発行)市場は「過去に例を見ないほどの発行量となった」(近藤氏)。そのため、SMBC日興証券の業績も、計画を上回る形で進捗しているという。

 ただ、個人向け営業は特に4月、5月には顧客に対して対面営業が行えなくなるなど、対面営業に強みを持つ同社としては厳しい状況となった。売買のタイミングでなくとも、対面ができれば資料やパンフレットを手渡すことで、顧客とのつながりを保つことができたが、それもできない。

 そこで従来は郵送していた商品の目論見書などを、メールを通じて、スマートフォンやパソコンから閲覧できる「メール電子交付サービス」や、「ウェブ面談」、「ウェビナー」を活用したコミュニケーションを実施。

 メール電子交付サービスは、コロナ前にすでにあったわけだが、顧客からのニーズは「家に持ってきてくれればいいから」、「郵送してくれればいいから」というもので、活用の機会が少なかった。昨年度の件数は13万件だったが、今年度は昨年度比40倍弱の約500万件という大幅増になる見込み。

 さらに、電子交付契約の件数は、前年度下期と今年度上期を比較すると約3・5倍の伸びを記録している。

 社内の効率化も進む。テレワークをする際の一つの障害は「紙」。そこで「紙文化からの脱却」、「電子化」を宣言、今年度から本格的に取り組みを進め、22年度末までに19年度末比で紙の使用量80%減を目指している。「最初はハードルが高いと思っていたが、現状で40%削減の目途がついているし、今の施策を進めれば60%程度までは目途がついている」(近藤氏)

 どのような施策を行っているかというと、20年11月末までに全営業社員に、オフィスのデスクトップPCと同等の機能を持つノートPCの配布を完了。これで機能上は「どこでも仕事ができる」環境を整えた。

 今後はこれまでの取り組みの中で出てきた社員のニーズを汲み取り、80%減に向けて取り組んでいく方針。

 コロナ禍で在宅勤務への取り組みはさらに重要度を増しているが、中にはそれぞれの家庭の事情で仕事がやりにくい住環境の場合もある。そこで活用するのが「サテライトオフィス」。

 外部事業者のサテライトオフィスに加え、自社の支店も活用。コロナ以前は支店で顧客を集めたセミナーなどを開催していたが現状では難しいため、前述の通りウェビナーを行っている。ペーパーレスの進展で書類を保管する棚も減った。支店には使われていないスペースがあるということだ。

 20年10月5日から東京都内7店舗でサテライトオフィス化を試行、外部事業者のものも含め、21年1月18日から全社員が利用できるようにした。サテライトオフィス化する支店は18日時点で22店舗に増やし、合計で全国約140拠点を整備する。

名古屋駅前支店
自社店舗のスペースを「サテライトオフィス」として活用している(写真は名古屋駅前支店)

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