2021-03-29

ライフコーポレーション・岩崎高治の食品スーパー論「危機を生き抜くライフラインとして」

岩崎高治・ライフコーポレーション社長



今後の個人消費の動向は?


 今、コロナ禍の真っ只中ということと、コロナ危機以前に生き方・働き方改革がいわれ、リモートワーク・在宅勤務もかなり浸透してきた。消費生活面でも、いわゆる巣ごもり需要が出たりして、小売業界や外食産業でもいろいろな変化が出ている。

 従来は、人が多く集まる都心部での店舗立地がいいとされてきたが、感染症防止のためには〝密〟を避けたほうがいいということで、郊外立地店が健闘するといった変化である。

 これからの消費需要については、どう見ているのか?

「オフィス街は、昼のランチの需要がなくなり、駅前のお店も概して言うと、それほどよくないですね。どちらかというと、郊外のお店がよかったりという傾向は出ていますね」

 時間帯でいうと、夜の営業は厳しくなってきている。従来、遅い店は深夜の午前1時、2時位まで営業していたのが、今はどんなに遅くても、午後12時には閉めるので、深夜帯、夜間帯の売上は減っているのが現状。

 なべて午後10時から同12時の間の売上は従来の7掛け、8掛けになっている。「お客様の行動が前倒し、前倒しになっています。夜は出歩かなくなっています」と岩崎氏。

 コロナ危機の中で、企業業績にも二極化の現象が見られる。

 ITやデジタル関連はDX(デジタルトランスフォーメーション)で需要が高まり、業績も好調。一方、外食、観光、宿泊関連は赤字か、大幅減収・減益といった惨状のところが多い。

 気になるのは、個人消費の動向。GDP(国内総生産)の6割を占めるだけに、全体景気の動向を左右する。小売業はことに個人消費動向の影響を受ける。

「7割ぐらいの人は収入が以前と変わらず、3割ぐらいの人がシビアに収入が減っているということで、そういう人たちは価格に敏感になっていくだろうと思うんです」

 岩崎氏は、「低価格商品の売れ行きがよくなっている」と最近の消費者動向を語る。

 財布のヒモが締まってきているということだが、前述の収入面で7割の人たちは以前と変わらないという点をどう見るか。

 全体を見わたした時に、単純に低価格志向だけが強まるのではなく、一方で〝お値打ち〟のものを求めるニーズも底堅くあるということ。付加価値の高い〝お値打ち〟の商品やサービスをどう掘り起こしていくかも、これからの小売業の課題。

『増収増益』決算の背景にあるもの


 今年1月上旬、首都圏や近畿圏を中心に2度目の緊急事態宣言が出された。新規の感染者数も漸減し始め、3月下旬にほぼ解除される見通し。しかし、油断はできない。緊張感は続く。

 ライフコーポレーションの2021年2月期決算は間もなくまとまる予定だが、増収増益となりそうだ。

 コロナ危機下、外出自粛が続き、巣ごもり需要で生鮮品を中心に食品の売上が好調。既存店売上は前年同月の実績を上回っている。

 今期(21年2月期)の業績は、売上高に当たる営業収益が7630億円(前年比7%増)、純利益は160億円(前年比2倍)になる見通し。

 2度目の緊急事態宣言は、首都圏と近畿圏の2大都市圏を中心に発令された。同社の店舗はこの2大都市圏を中心に展開されており、これがどう業績に響いたかは今後の分析を待たねばならないが、本稿の冒頭で示した通り、要は顧客と従業員の結び付きを基本にした店づくりに徹するということであろう。

 当面、まだ感染症危機は続く。この間、企業業績の振るわない業種もあり、また所得減の人たちも出現。先行き不透明感は根強くあり、節約志向は続く。

 その意味で低価格商品を求めるニーズにも応えていくことも必要。そして顧客のライフラインを守るというスーパーマーケットの使命として、柔軟で多様な対応が求められるのも事実。

 同時に、中長期展望による経営戦略も不可欠。日本国内の人口減、少子化・高齢化は続き、人口動態も変化していく。

 世帯数そのものは2020年時点で約4885万世帯と25年前の1995年(約4390万世帯)と比べると500万世帯近くも増加。核家族化されていることなどが背景にある。

 人口減少なのに、世帯数がこのところ増え続けてきた背景にこうした人口動態がある。

 一人で住む単独世帯は10年前より200万世帯近く増え、2025年には1865万世帯になるという予測もある。

 こうした社会構造の変化にライフラインを守る産業として、どう対応していくのか。

 長期展望に立って、ポスト・コロナを含めて、岩崎氏は、「そのときに価格一辺倒の競争になるのはよくないなと思っています」と次のように語る。

「スーパーマーケットは生産性が低いと経済産業省からもずっと言われていた。なぜなのかと言うと、同質競争をしているからなんですね。同質競争の最たるものが価格競争で、競争が激しいから、結局安売りしている」

 岩崎氏が続ける。

「コロナが収束して、小売業、スーパーマーケットがどうなるかですが、元に戻ったら知恵がないので、同質競争にならないようにしていくことが大事。もちろん、価格も大事なことなので、価格も1つの要素ですが、価格競争一辺倒にならずに、それ以外のところで付加価値を提供していく。そこで差別化を図って、お客様から選んでいただけるような店でありたい。そういうスーパーマーケット、会社になろうと」

 その意味では、プライベートブランド(PB)の商品開発もさらに推進していくことになる。

 また、現在のコロナ禍にあって、リモートワークの生き方・働き方の中で郊外店の売上がいいという現象が見られるが、これをどう見るか?「そうですね。今は、郊外のほうがいいですが、急にそちらに出店をといっても、新しくお店ができるのは2年後ですから、また様子が変わってきている」

 岩崎氏はこうした認識を示し、「今やっているエリアをしっかり守っていくというか、そこできちっと商売していく」と語る。

本誌主幹・村田博文

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