2021-03-29

ライフコーポレーション・岩崎高治の食品スーパー論「危機を生き抜くライフラインとして」

岩崎高治・ライフコーポレーション社長



創業者・清水信次氏から後事を託されて


 ライフコーポレーションは、創業者で現会長の清水信次氏(1926年=大正15年4月生まれ)が1961年(昭和36年)11月、大阪・豊中市にスーパーマーケット『ライフストア』1号店を開店したのが始まり。

「流通の経営は、変化に対応できる感性がないと務まらない」というのが清水氏の持論。

 小売業は有為転変の世界。清水氏はそれを肌で実感じてきた。今は戦後75年余が経った。1950年代半ば以降、つまり敗戦から10年ちょっと経って、「さあ、新しい時代を創るぞ」という世代に清水氏は属する。

 同じ世代は、ダイエー創業者の中内㓛氏(1922―2005)やイオン創業者の岡田卓也(1925年=大正14年生まれ)、そして元西武流通グループ=セゾン代表の堤清二氏(1927―2013)という顔ぶれ。

 かつてダイエーを小売業日本一に育てあげ、流通革新の旗手としてもてはやされた中内氏。バブル経済がはじけた1990年代以降、経営が傾き始めてダイエーはイオン傘下に入った。

 堤氏が起こしたチェーンストア西友は米ウォルマートに買収されるなどオーナーが転々としている。

 欧米の小売業の研究・調査にいそしんできた清水氏は有為転変の小売業を知り抜いている。だから、自分たちの得意技を本業とし、「本業に徹する」ことの大事さを説いてきた。

 チェーンストアの〝本家〟である米国でも、1950年代半ばの流通ナンバーワンはA&P。しかし、10年経つと、シアーズが出てきて、A&Pは凋落。さらに10年経つと、シアーズがおかしくなり、Kマートの全盛時代を迎える。そして、もう10年経ったら、ウォルマートがトップに立つという変転の歴史。

 そして今は、インターネット通販が盛んになり、巨大ITプラットフォーマーの米アマゾンが小売業でも存在感を高める。「小売業を維持発展させることは容易ではありません。至難の業です」という清水氏の感慨には実感がこもる。

 清水氏は今年4月18日、95歳の誕生日を迎える。今から15年前、清水氏は79歳で40歳年下の現社長・岩崎高治氏に社長をバトンタッチして会長に就任、現在に至る。

 15年前、清水氏は岩崎氏に後事を託すときに、「当社は、今はいいですが、これで未来永劫いけると思ったら、大きな錯覚です。そういう意味でも、わたしは若い岩崎君が非常に適任ではないかと思ったのです」と本誌のインタビューで語っている。

 社長就任時の売上高は約3600億円、今は7600億円台で2倍以上。店舗数は189店から281店と1・5倍になって成長。

「トータルの数字だとそうですが、一店舗一店舗ずつ、その地域のお客様から選ばれるお店になろうと。それをみんなが理解してやってくれたのが大きいかなと思っています」と岩崎氏。

 その地域に根を生やして1番店を目指していく考えである。

 創業者・清水氏は三菱商事と資本提携(現在、三菱商事の持ち株比率は23・21%で筆頭)。岩崎氏は三菱商事出身で、ロンドン駐在時に清水氏にスカウトされたという経緯。

 岩崎氏は15年前、社長内定時の記者会見で、託された社長の仕事を「20年は続けたい」と明言。

 その共同記者会見で、清水氏は、「岩崎君は三菱商事に在籍」と説明。事実、その時はそうだったのだが、39歳の身で社長内定が決まったとき、岩崎氏は退路を断つという意味で、「社長20年」を口にしたのである。

 企業も人も未来永劫、安定はない。いろいろな危機やリスクが存在し、襲来する中で、安定させようと努力し続ける。そこに、〝人と人のつながり〟があるし、何より会長と社長というトップ同士のそれぞれの〝覚悟と決断〟がある。

『信頼』と『一期一会』──。岩崎氏が大事にする言葉だ。

本誌主幹・村田博文

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