オープン化の時代、専用のシステムは時代遅れ─。この言葉を象徴するのが金融システムといえる。給与デジタル払いで銀行の中抜きが現実味を帯びる中、三菱UFJフィナンシャル・グループと米アカマイは、ブロックチェーンを使った新たな決済ネットワークを構築。金融業界が抱える課題を解決する新たなインフラの中身とは─。既存の手数料を5分の1に「百円のジュースの決済に3円の費用が掛かってしまっては使えない。ネットワークをシンプルにしてコスト競争力を強化しなければいけない」(Global Open Network Japan:GO-NETジャパン代表取締役CEO徳永信二氏)
キャッシュレス決済で少額決済が増える中、カード決済の手数料問題を解決すべく、GO-NETは今年7月から自販機向けの非接触型カード決済のネットワークサービスを開始。クレジットカードでSuicaのように少額決済できるようにする。
「クレジットカードのターミナルは高機能で値段も高く、さらに専用回線を使っている。それらをすべてインターネットにすることでコストを従来の5分の1程度に低減させる」という。
GO-NETといってもピンと来ない人も多いと思うが、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が80%、米アカマイが20%出資して2019年2月に設立。取締役会長にはMUFG取締役代表執行役社長グループCEOの亀澤宏規氏が就くなど、MUFG肝煎りの会社だ。
一方のアカマイは、世界135カ国、1400以上のネットワークに30万台以上のエッジサーバーを配置し、サイバーセキュリティや動画などの大容量コンテンツを高速に配信する事業を展開。〝知られざるインターネット界の巨人〟と言われている。
MUFGとアカマイの接点は、12年にサービスを開始したクレジットカードや電子マネーなどに対応したクラウド型マルチ決済システム『J-Mups』での協業。
専用回線を使っていた金融決済を世界で初めてインターネットで完結させ「インターネットに最適化された安全で拡張性の高い新しい金融決済」を実現。
この成果を受け、「両社でIoT時代を見据えた議論を開始。世界が求める決済システムに応えられるものとして高速ブロックチェーンプラットフォーム構築プロジェクトがスタートした」
GO-NETの事業内容はブロックチェーンを活用した決済ネットワークの提供・運営・管理とシステム開発・保守・運用・管理。
まずGO-NETジャパンで日本で事業を始め、その成果をもとに世界に事業を広げていく計画だ。
だが、既存の決済ネットワークがあるのに、なぜ新たなネットワークが必要なのか─。
そこには金融業界が抱える問題がある。『全国銀行データ通信システム(全銀システム)』など金融専用システムの存在だ。
送金システムの『全銀システム』にはほぼすべての銀行が参加しているが、手数料が高止まりしていることを公正取引委員会が問題視。昨年4月、報告書を発表し、今年10月から手数料が引き下げられることになった。
手数料が問題になったのは、キャッシュレス決済普及の妨げになっている側面があるからだ。
キャッシュレス決済はクレジットカードや銀行口座などと接続して使う形になっており、フィンテック企業が銀行と連携したサービスを提供しようとするとシステム利用料が発生。その金額が高いため、普及が進まないという課題があった。
システム利用料が高いのは『全銀システム』やカード決済の『CAFIS』、『日銀ネット』などのシステムが専用ネットワークで構築されているため。技術の進化で新たな機能の追加が相次ぎ、システムが複雑化。NTTデータなどITベンダーに払うシステム投資も高額になっている。
「専用のサーバーやネットワークでは高コストになってしまう。アカマイの技術を活用したプライベートブロックチェーンで超高速、超高可用性を実現し、セキュリティやグローバルへのアクセスを担保し、競争力ある価格で提供する」のがGO-NETだ。
すでにセキュリティ基準の認証を取得し、MUFGのクラウドセキュリティ基準にも対応。
また秒間10万件の処理能力があり、約1000万件まで拡張可能。GO-NETのネットワーク内で情報をやりとりし、大量・高速、安価な決済処理を実現する。
化石化した既存金融インフラを時代に合ったものに変えていくのがGO-NETの狙いだ。
度重なるみずほのシステム障害