2024-07-02

第一交通産業・田中亮一郎社長に直撃「タクシーでできることはまだまだある。まずは規制緩和の実行を!」

田中亮一郎・第一交通産業社長

「ライドシェアに反対しているわけではない。順番が違うということを言いたい」─。全国34都道府県に事業所を持ち、タクシー保有台数は国内最大の8000台超を誇る日本最大級のタクシー会社。第一交通産業社長・田中亮一郎氏はこう強調する。「タクシーが足りない」と言われ、一般ドライバーによるタクシー会社が運行主体の「自家用車活用事業」(日本版ライドシェア)が始まった。しかし、タクシー業界は規制でがんじがらめになっている。田中氏はその規制を緩和することが重要と訴える。公共交通機関であるタクシーのあるべき姿を探る。


米国でも変わるライドシェア

 ─ 一般ドライバーが有償で顧客を送迎するタクシー会社による「ライドシェア」が4月から条件付きで利用できるようになりましたね。

 田中 ええ、今回のライドシェアは日時や曜日、時間、場所などが国から指定されています。また、運行管理はタクシー会社が担い、タクシー会社がドライバーの教育や車両の整備、勤務時間の管理などを行うと共に、車両にタクシーと同水準の任意保険をかけるようになります。更に政府内では、タクシー会社以外の事業者の参入を認めるかどうかが検討されています。

 私は決してライドシェアの解禁に反対ではありません。実際タクシーなどの公共交通機関でカバーできていない秩序のないエリアがあるわけですからね。ただ、タクシー車両が足りない分をライドシェアで補う、タクシー業界と関係ない個人がエリアをカバーするのはいかがものかと。むしろ、タクシーの規制緩和でできることはたくさんあるのではないかということです。

 ─ 実際にタクシーは足りないのでしょうか。

 田中 タクシーの車両は足りています。問題はタクシー車両を運転するドライバーが足りないのです。しかも、時間や場所、天気、イベントの有無などによって一時的にタクシーが足りなくなったり、ビジネスの需要が多い都市部だと早朝や夜に足りなくなることがあります。

 一方で、地方では自治体が様々な対策に乗り出しています。市町村やNPO法人が公共交通機関の空白地帯をカバーするケースです。特に今回のライドシェアは現行の道路運送法の拡大解釈で運用していますが、約10年前から既に地方の路線バスやタクシーが廃止されて住民の足がなくなったときには、「地域公共交通会議」を開いて許可を受ければ自家用有償運送ができることになっています。

 ─ 実行例はありますか。

 田中 たくさんあります。当社でも300カ所以上で展開しています。ですから、いま議論しているライドシェアは10年以上前の米国でウーバーが登場したときのやり方なのです。しかし、米国もウーバーも中身は10年前と変わっています。

 要は雇用が前提になっているのです。当初の米国ではギグワーク(雇用関係を結ばない単発・短時間の働き方)が許されていましたが、今ではギグワークを認めない州の方が多くなっていますし、欧州もそうです。欧州ではライドシェア事業者は運輸事業者でなければならないとしています。そんな中で日本は海外の10年前に先祖返りしようとしているわけです。


タクシー不足の証拠はない!

 ─ 原点は何かを、もう1回議論しなければなりません。

 田中 そうです。まずはタクシー会社への規制緩和を実施することが重要ではないでしょうか。例えば当社では先ほど申し上げた鉄道やバスが撤退した交通空白地帯で移動困難者の外出支援を目的に乗合タクシーを運行させる「おでかけ交通」というサービスを展開しています。

 また、タクシー会社は道路運送法上では5台のタクシー車両を保有していなければならないとされていますし、営業所を設置するにしても土地や建物の占有が基本で、公民館や役所の駐車場を借りるということも許されていません。ですから、「おでかけ交通」を行うにしても、5台分の車両と営業所を確保し、運行管理者を確保しなければならないということです。

 今はデジタル化が進展し、リモートでもしっかり運行履歴などの証拠が残るようにし、どこかの公民館の駐車場を借りてもいいではないかと。しかも、タクシーが公共交通機関と位置付けられたのは2013年、僅か11年前です。それまでは鉄道やバスのように助成金や補助金をもらってきませんでした。

 鉄道やバスはたくさんの助成金や補助金を得てきたにもかかわらず、やむなく減便したり、廃止されたりしてきました。そして、タクシー業界はコロナ禍の3年間で多少の助成金をもらっただけです。そこに「タクシーが足りない」と指摘されている。何か順番が違う気がします。

 ─ まずは問題点をしっかり整理する必要があると。

 田中 ええ。例えば1つの論点として出前の受給バランスと価格の問題があります。ウーバーはオンラインフード注文・配達の「ウーバーイーツ」を運営していますが、例えば牛丼が420円で買えるのに、ウーバーイーツで頼むと約600円になる。その価格を地方の人たちが受け入れるでしょうか。

 さらに4月からのライドシェアの対象エリアは12地域ですが、実はこれらの地域を含めてタクシーが足りないというエビデンスは存在しません。去年の10月から12月の3カ月間、日本で展開されている配車アプリの実績からマッチングができなかったエリアや時間帯などを割り出しているだけになります。

 つまり、1人の人が3つの配車アプリを起動させ、マッチングしたアプリ以外の2つのアプリがマッチングできなかった場合も含まれているのです。しかも、去年の10月から12月ですから、コロナ5類以降後、初めての忘年会シーズンも含まれているということになります。

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