安全・環境基準は世界基準
そしてもう1つ、認証不正の背景に上がるのが認証制度の在り方の問題だ。型式指定制度は1951年に成立した道路運送車両法に基づいており、メーカーが国に提出する認証に必要なデータは検査条件などが細かく定められている。ただ、試験の多くはメーカーが自ら実施するため、「メーカーの性善説に基づく制度」(関係者)と言える。
しかし、企業の性善説に基づく構造は2016年の三菱自動車による燃費データ改竄やスズキの不正な手法による燃費測定問題が発生したときには「襟を正す機会はあったはずだ」(別の関係者)。また、トヨタのように厳しい基準で検査をしても問題がないように「あらかじめ国と制度の在り方について対話することもできたはずだ」(部品メーカー関係者)といった声もある。
型式指定制度の保安基準(安全・環境基準)はタイヤやシートベルトなど47項目あり、現在の内容は国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)で定めたもの。海外で規定のない日本独自の項目はワイパーなどの4つだけだが、事実上、国際基準になっていると言える。
その意味では、トヨタのように「より厳しい基準で検査をしたからといって日本だけが異なる条件で試験を行っているということになれば、国際的な信用を失うことにもつながりかねない」(前出の専門家)。
ダイハツ工業や日野自動車などのグループ会社で不正が起こった際、豊田氏は「グループの責任者」として再発防止に臨む決意を表明していた。しかし、今回の不正はトヨタ本体で起きた。今後に向けて豊田氏は「それぞれの認証項目において各工程がなすべき作業を標準化する、また保証すべき品質基準などを整理した段階。これが進めば異常管理ができる」と話す。
しかし競争は激化する。足元の自動車市場では中国メーカーが日系メーカーの牙城であるアジアに続々と進出。トヨタは不正3車種の生産休止を7月末まで継続し、新車の発売も延期を余儀なくされた。クルマの知能化で複雑性はさらに増す。
その中でトヨタの得意とする「現場」「現物」「現実」の「三現主義」を劣化した現場で再度復活させるためにも、経営と現場の〝密接な連携〟がこれまで以上に求められる。