2024-06-29

「観光にフォーカスした言語サービスで日本を元気に」Kotozna社長後藤玄利の〝二度目の起業〟

後藤玄利・Kotzna社長

「人手不足で混乱する観光現場を支援したい─」こう話すのはKotozna(コトツナ)社長の後藤玄利氏。後藤氏は1994年に日本最大の医薬品ECサイト・ケンコーコムを創業し2004年に上場後、2012年楽天傘下に入る。2013年医薬品ネット販売規制裁判において最高裁で国に勝訴したが、2014年に突然代表を辞任した。2年後の当時49歳、二度目の起業で注力するのは最新テクノロジーを活用した多言語翻訳ツール。「日本を元気にするだけでなく、グローバルでも価値を生み出す会社をつくりたい」と第二の起業の抱負を語る。


生成AI(人工知能)、多言語で〝おもてなし〟

「日本、特に地方を元気にする産業は今後インバウンド観光がメインとなるはず─」2016年からこう予測しインバウンド客に向けてAIを駆使した多言語翻訳ツールの開発で起業したKotozna(コトツナ)社長の後藤玄利氏。

 訪日客数は今年3月、4月に2カ月連続で300万人を超え、過去最多を更新し続ける。世界中から押し寄せる訪日客に対応する宿泊施設は高まる需要に嬉しい悲鳴だが、一方で現場の人手不足による逼迫感も聞こえてくる。特にマルチリンガルのスタッフは大半がコロナ禍に母国に帰国してしまい、外国人客への対応に困っている事業者は少なくない。

 この人手不足の救世主となっているのが、同社の生成AIを使用した多言語同時翻訳ツールを活用した「Kotozna In-room」。旅行者がスマートフォンで客室にあるQRコードを読み込めば母国語で施設案内が表示される。何か困りごとがあれば質問はチャットを通じて母国語で質問ができる。従来はフロントに電話して聞いていたような事柄に加えて、施設周辺情報等も教えてくれる。導入した施設によれば、これによりチェックイン時間と内線の問い合わせが大幅に削減。導入施設で宿泊客の利用率は8割を超える。

 システムの裏側ではデータを蓄積し、旅行者が何に困ることが多いかを分析する。同じような質問の返答は自動返答を行うことで、スタッフを必要な対応に集中させることができ省人化に役立つ。109言語に対応した同ツールは、JTBと業務提携し現在全国500以上の宿泊施設で導入が進む。

 宿泊施設以外にも最新生成AI・Chat GPT4を活用した同社のサービスは行政等様々な場所で広がりを見せ、インバウンド需要の縁の下の力持ちの存在として消費を支える。後藤氏はChat GPTのことを「何カ国語も話せるおしゃべりが上手な気立てのよい子」と説明。

 与えられている情報を基に、もっともらしい自然な対話をすることを得意とする一方で、漏れなく正しい情報を教えていなければ微妙に違ったことを答えるリスクがある。

「逆に言えば、つくる側が特定の事業者に特化した正しい情報を与えておけば間違えることはない」と後藤氏。

 同社のチャットボットは独自の技術でより正確性の高い返答を可能とし、人と話しているような自然な会話を実現している。

 具体的な導入先は、行政の観光案内所や企業のコールセンター、日本に留まらず海外でも導入が開始。シンガポール・チャンギ国際空港内のショッピングモール・ジュエル内の案内チャットボットにも採択され、海外から来る多様な人種に対応する。

 脱炭素社会を見据え観光事業に注力するサウジアラビアでの販売開始に向けて提携を進め、インバウンド客が押し寄せる様々な場所での展開に意気込む。

 各事業者にとっては人手をカバーし、日本を旅する旅行者にとっては言語の心配を払拭するという、双方にメリットが大きく急速に普及している。


生成AIと人の役割分担は…

 同ツールのように、生成AIは高い生産性で人手不足を補う役割を担う。人口減が進む日本では労働力を補完するために生成AIの力を借りることが必須な時代に突入。既にプログラミングも人間より上手にコードを書けるレベルにまで到達しており、使いこなす人間側がその進化スピードについていけなければ、あっという間にAIに職を奪われるという指摘もある。

 しかし、便利になる一方でこれまで人間が鍛錬してやってきたことを生成AIが代わりにやってくれるとなれば、人々の脳は鍛えられず退化の方向に進まないか? 後藤氏にこう問いかけたところ次のように語った。「人のできることを拡張している生成AIを今後の社会で活用していく流れには抗えない。自動車が出てきたときも同じでした。生成AI、Chat GPTとは何者なのかをわれわれ使う側が正しく理解し、最大限活用していくことが大切だと思います」と語ると同時に、生成AIと人の関係について次のように答える。

「Chat GPTは指示したことをいち早く実行してくれる存在だが、何をやってほしいかの指示はやはり人間が与えなければいけない。今後指示する側の人間は、構想力、夢見る力、発想力がより大事になってくる。人間はそこの分野を磨いていく方向へシフトが求められる」

 日進月歩で進む生成AIについてはルール規制の議論がなされている最中だが、世界中の企業・行政で部分的に導入し始めている。国際競争力を落とさないためにも、日本国内で使う側の正しい認知・理解を進め、サービス実用化に向けた全体のルールづくりや教育も急がれる。

 後藤氏は国内最大級の医薬品ECサイト・元ケンコーコム社長・創業者で、インターネットでの医薬品販売のパイオニアとして道を切り拓いてきた人物。2014年に代表を辞任してからは表舞台から姿を消していた。次は社会性の高いビジネスをしたいと考え、シンガポール国立大学のリークワンユースクール公共政策大学院で学び直した。第二の起業に選んだ日本のインバウンド需要を支えるツールづくりに、創業者魂の火を再び燃やす。

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