2021-04-08

原子力規制委員会が東電のテロ対策に是正措置命令へ

小早川 智明・東京電力ホールディングス社長

北朝鮮や中国など、東アジアにおける地政学リスクが高まる中、原子力発電所のテロ対策の脆弱性が露呈した形──。

 東京電力ホールディングス(小早川智明社長)が再稼働を目指す柏崎刈羽原発(新潟県)のテロ対策に不備があるとして、政府の原子力規制委員会は3月24日、東電に核燃料の移動禁止などを柱とした是正措置を命じる方針を決めた。

 今後、東電から行政処分案について意見聴取し、速やかに発出する。処分が正式に決まれば、規制委が「改善」と判断するまで、再稼働プロセスは凍結する。地元の不信感は大きく、東電への風当たりは強まるばかりだ。

 柏崎刈羽原発では昨年3月以降、テロリスト侵入などを検知する複数の設備が壊れ、その後の対策も十分に施されていなかった。また昨年9月に社員が同僚のIDカードを使って中央制御室に不正に入室していたことも発覚した。

 一連の問題を受け、規制委の更田豊志委員長は3月24日の会合で、「核物質防護が十全なのか確認し切れていない」と指摘。テロの対象になり得る核燃料を使用済み燃料プールから移動させないことが核物質の防護につながるとして、移動禁止の是正措置を提案し、了承された。

 是正措置が発出されるのは、2013年の高速増殖原型炉「もんじゅ」に対し、保安規定の変更を命じた時以来、2例目となる。エネルギー業界の関係者は「東電は代替措置を取ったと説明しているが、本当に機能するか疑わしい。10年前の福島第一原発事故で浮き彫りになった社内の無責任体質が残っているならば、根深い問題だ」と懸念している。

 原発事故で16兆円の廃炉費用負担を課された東電にとって、柏崎刈羽原発の再稼働は1基当たり年間1千億円の利益の改善効果を見込める「重要な目標」(関係者)だった。

 柏崎刈羽7号機は規制委の新規制基準適合審査に合格しているが、規制委の是正措置命令後、1年以上は再稼働が困難になるとみられる。資源エネルギー庁幹部は「年内の再稼働を意識していたが、全てのスケジュールがずれ込んだ」と漏らし、今年のエネルギー政策の工程を一部見直す可能性を示唆した。

 新潟県では東電に対し、「信頼が大きく損なわれた」(花角英世知事)と批判が出ている。東電や経済産業省の一部には、会長不在の中、やり玉に挙がる小早川智明社長の体調を懸念する声もある。ただ、今回の問題で改めて東電の企業統治体制に疑問符が付いており、経産省などが水面下で進める会長候補探しは容易ではなさそうだ。

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