2021-04-20

トヨタ自動車・内山田竹志会長が語る”水素の未来と課題”

内山田竹志・トヨタ自動車会長



 ── 日本でも昨年10月に菅義偉首相がカーボンニュートラルを目指すと宣言しました。

 内山田 ええ。COVID-19との戦いは続きますが、この戦いが終わった後の社会・経済をどう立て直すかという中で、各国が温暖化対応と経済成長を両立させる取り組みを加速させているわけです。

 その中で仏や独、中国などが独自の水素戦略を発表しています。主要国が温暖化対策は待ったなしという認識で本腰を入れていることになります。

 ── 他国でも戦略が異なるということは、キーワードは「多様化」になりますか。

 内山田 はい。地域や国によって少しトーンが違いますが、少なくとも我々はHV、プラグインハイブリッド車(PHV)、EV、FCVという4つの電動車を総動員しないと対策はできないと考えています。

 真の意味でカーボンニュートラルにするにはEVかFCVしかありません。しかし、EVとFCVに一気に切り替えていけるかというと難しい。燃料や走行距離、コストなどの問題があるからです。今の電動化は私自身、ユーザーの利便性を忘れて議論されているように感じます。

 ただ、電動化に移っていくことは間違いありません。そこでは、まずHVのようなインフラ整備の必要がない電動車両に置き換えていくことで早く実効性を上げていくべきではないかと。HVはガソリン車に比べて30%~40%程度、CO2の排出量を下げることができますからね。

 また、先ほどの世界で進む厳しい燃費規制に対応していくためにも、HVやPHVを大量に入れていかないと、燃費規制に対応することはできません。もちろん、EVやFCVも対応できるのですが、全部のクルマがリプレースできるかというと、それはできないでしょうね。

 ── 現実をしっかり見ていかねばなりませんね。

 内山田 そうですね。そのときに大きな問題は燃料を何にするかです。今はガソリンですが、EVは電気、FCVは水素で、電気も水素も結局、石油や天然ガス由来だと生成プロセスでCO2が排出されてしまう。これも最終的にカーボンフリーにしないといけません。この点で日本の取り組みは遅れているので、今後はスピードアップしていただきたい。

 結局、産業活動のエネルギーをカーボンフリーにしないとトータルでカーボンニュートラルになっているとは言えません。これは逆に言うと、一つの企業では何ともならないということ。国のエネルギー政策そのものだからです。カーボンフリーに向けて国としてのエネルギー政策をしっかり固めていかねばなりません。

 ── 燃料を使う川下の部分だけでなく、川上の部分もしっかり見ていかねばならないと。

 内山田 はい。発電所の設備など様々なものをリプレースしていかねばなりませんが、全てを置き換えるまでの間は、CO2フリーにはならない。では、その間をどうするか。例えば、電気の生成から実際にEVで走るところまでと、ガソリンの生成から実際にHVで走るところまでのトータルのCO2排出量は、ほとんど変わりません。むしろ、HVの方が遥かに安いし、走行距離も長くて便利です。

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