2021-04-16

東レ社長・日覺昭廣の「素材には、社会を本質的に変える力がある!」

日覺昭廣・東レ社長


もっと民間の出番を!

「ええ、米国などでは、もう民間が検査を積極的にやっているでしょ。日本は泥縄的な危機対応になっている気がします」

 日覺氏は米国の例を引き合いに出し、「重病患者用のECMOなどが足りないとなったら、米国はもう自動車メーカーのGMに作らせたんですよ。あれは日本だと作らせないでしょうね」と語る。

 ECMO(体外式膜型人工肺)。日本で、例えばトヨタ自動車がこれを作ろうとなると、医療機器をつくる免許がないから駄目となる。

 もちろん、人の命に関わる医療機器だから、だれもが勝手に作って販売できるというわけにはいかない。ただ、100年に1度といわれる感染症の襲来である。国として、社会全体として、有事の危機対応を図るのかという命題。

 国情や国柄の違いと言ってしまえばそれまでだが、せっかく日本に技術基盤や能力があっても、それを危機時に生かせないもどかしさ。

 例えば、欧州で使われた民間の自動検査機も千葉県のメーカー製だった。自動的にコロナ検査ができるということで、欧州全体で約600の自動コロナ検査機が納められているという。

 日本で作っているのに、日本では認可されていない。海外では使われているというので、日本でも昨年急きょ認可されたという経緯。

 コロナ危機は多くの示唆に富む教訓を与えてくれている。

 危機管理については、都市封鎖(ロックダウン)の有無、マスクの着用とそれこそ国や都市によって違う。命や健康の守り方も国によって考え方・価値観が違い、民心などの国情も出て、まさに多種多様。

 この多様な世界にあって、ガバナンス(企業統治)をどう効かせていくか。

〝モノづくり〟の東レが生産拠点を持つのは28か国。そして世界全体に製品を販売する中での経営のカジ取りである。

この変革期は「人を大事にする」経営で

 コロナ危機による業績への影響はどうか?

 東レは3月期決算で間もなく業績を開示するが、減収減益は避けられない見通し。ただ、昨年後半からは回復基調にある。日覺氏が2021年3月期を振り返る。

「(21年3月期の)第1四半期の4月―6月期が最悪期で、このときは自動車産業向けの資材供給が止まってしまった。われわれ素材メーカーはちょっと遅れて、7月―9月期が最悪かなと思ったら、そうでもなくて、5月に緊急事態宣言が解除された後ぐらいからは全体的に持ち直してきた。10月以降はほぼ前年並みの動きになりましたね。特に最近では、自動車の販売が大変好調なんですよね」

 日覺氏はこの1年の動きをこう語り、自動車向けの仕事を含めて、次のように分析。

「このコロナ禍にあって、自動車は安全だと。通勤にしても、公共機関を使うよりは、やはり自動車を利用するとかね。また郊外に出かけるのにもいいということで、中国を含めて海外ですごく自動車が売れている」。

 昨年後半からの持ち直しで、収益見通しも上方修正。当初、2021年3月期の営業利益は約700億円(20年3月期は1311億円)の見通しだったが、途中で800億円に、そして900億円へと上方修正し、「できたら1000億円ぐらいにいきたいなと」という状況。

 ちなみに、21年3月期の売上高見通しは約1兆8400億円(20年3月期は2兆2146億円)で減収減益になる見込み。

 コロナ禍で産業界の業績も明暗を分ける。航空業界や鉄道各社は人の移動が抑制されて業績も不振。反面、モノの移動にたずさわる物流・運送業は巣ごもり需要もでて業績好調だ。

 製造業も影響を受けたわけだが、前述のように、「昨年後半から、製造業全体は盛り返してきている。復活する力はあると思うんです」と日覺氏は語り、「観光、宿泊関連のダメージが大きいし、いわゆる中小零細の領域、特に個人商店の所が厳しいですね」と2極化の認識を示す。

 このコロナ危機の中で、デジタルトランスフォーメーション(デジタル革命)が進み、産業構造も変革していく。こうした混沌状況下でどう生き抜くかという命題である。

「東レ型の経営観、人を大事にする経営でこの変革期に臨んでいきたい」と日覺氏は語る。

本誌主幹・村田博文

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