2021-05-11

日本郵船 ・長澤仁志の「打たれても出る杭になれ!」

長澤仁志・日本郵船社長



 この好決算をもたらした要因は昨夏以降、モノの動きが活況を呈したことにも求められるが、やはりコロナ禍前に同社が構造改革の一環として手を打ってきたコンテナ船の統合が功を奏した。

 日本郵船は商船三井、川崎汽船と共に17年にコンテナ船事業を統合、『オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(Ocean Network Express,LTD 通称ONE=ワン)』を設立。

 コンテナ船は食料や雑貨などの日用品、そして原材料から精密部品まで日常生活に必要な物資を運ぶ。原油を運ぶタンカーと並んで海洋貨物輸送の主流を占める大事な事業。

 海上輸送の花形だが、いかんせん日本の海運主要3社のシェアが近年小さくなっていて、構造改革が求められていた。

「世界的な規模で見れば、3社それぞれで2%、3%のシェアしかないと。一方で、大手のマースクやMSCは2割ぐらいのシェアを持っていて、10倍くらい違う」

 これでは競争にならないと、日本郵船は内藤忠顕氏(現会長)が社長の時代の17年に商船三井、川崎汽船と共同でONEを立ち上げたという経緯。

 ONEはスタート当初、システムづくりとその運用で不具合を起こし、1年目は約620億円の赤字を出して、文字どおり、産みの苦しみとなった。

 19年3月期に、日本郵船が経常利益で20億円強の赤字(営業損益では110億円の黒字)を出し、当期利益(純利益)で445億円の赤字決算になった要因の1つがこのONEの損失であった。

 そのONEも19年度は立ち直り、「本当にONEの人たちはよくやったと思います。19年度に立て直したことが20年度につながった」と長澤氏は今回の好業績の主役になったと評価する。

 海運を含む物流の国際競争は激しくなるばかり。

 マースク(正式にはAPモラー・マースク)はデンマークに本拠を構え、コンテナ船を550隻以上所有し、世界125カ国に事業拠点を持つ世界最大の海運会社。

 同2位のMSCはスイス・ジュネーブに拠点を構え、グローバル市場での存在感を高める。

 海運市況の上昇とコンテナ事業の構造改革の相乗効果で大幅増益になったということ。コンテナ事業で生き抜くため、この統合はグローバル競争下での1つの道筋をつけたと言っていい。

 この事業統括はコンテナ以外でも可能性はあるのか?

「コンテナ船は3社合わせても、まだまだグローバル市場でのシェアは7%程度。ところが、自動車輸送の船では、邦船3社で世界のシェアはかなり高い。独禁法などの絡みもあり、それにいろいろな障害もあって、なかなか簡単ではありません」と長澤氏。

 同社の事業は、定期船(コンテナ船部門とそれを各地で展開するターミナル関連部門)、航空貨物、物流(陸運)、そして不定期船という構成。

 不定期船事業の中に自動車輸送、ドライバルク輸送(鉄鉱石や石炭など)、それにエネルギー輸送(原油、LNG、石油製品、ケミカルなど)の各部門を抱える。

 海運などの輸送事業は世界経済の動向、変化を敏感に受ける。今回のコロナ禍で昨年前半は自動車の製造、販売が低迷。このときは自動車船輸送もマイナス影響を受けて苦しかった。

 航空貨物も19年度は苦しく、コロナ禍前半も同じ状況だった。しかし、後半には需要が増え、同社の関連会社、NCA(日本貨物航空)の好業績につながっていった。

「海運業というのは、いろいろボラティリティ(変動性)があり、非常に汎用性も強いですね。だから、ある程度コントロールできる範囲でポートフォリオを組んでいくことが重要だと思っています」

 良い事も悪い事もある中で、コア・コンピタンス(競争力の中核)をどう作りあげていくか──。「力を入れていくものと、ちょっと抑えていくものとバランスを取りながら、やっていく」と語る長澤氏だ。

本誌主幹・村田博文

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事