2021-05-11

日本郵船 ・長澤仁志の「打たれても出る杭になれ!」

長澤仁志・日本郵船社長



 菅義偉内閣は、2050年に地球温暖化ガス(CO2=二酸化炭素)の排出を実質ゼロにすると明言。この大きな政策の方向に沿って、CO2対策をどう立てていくか──。

 同社が事業活動で年間に排出するCO2は1420万トン。国内企業では鉄鋼や各社電力会社が最も多い排出量となるが、その次のランクで海運各社の排出量も多い。

 数年前は、産業界でも石炭や石油より排出量の少ないLNG(液化天然ガス)などの活用で環境問題に対応しようという考えが多かった。

 しかし、国連が2015年にSDGs(持続的発展のための諸目標)を設け、CO2排出をなくしていこうと呼びかけたことから、世界全体の流れが一変。

「われわれは年間1420万トンを排出している会社。何もしなければ、社会から淘汰される」

 長澤氏はこうした認識を強め、20年4月、社長をトップとするESG経営推進体制を構築。

 E(Environment、環境)、S(Society、社会)、G(Governance、ガバナンス=統治)を重視するESG経営への推進。具体
的には21年1月、ESG経営推進グループを新設、同4月、長澤氏をトップとするESG経営推進委員会を設置。

 ESG経営推進委員会や推進グループが全社方針や目標を設定し、各経営現場は部署単位や1人ひとりのやるべき事などを決めて実行。その結果は経営会議や取締役会へ報告していく体制である。

 こうやって、意識の大変革を図る経営戦略。CO2削減、排出の実質ゼロを図ることは容易なことではなく、これまで〝成長の制約〟と受け取られていたが、その制約要因を成長要因に切り換えようという意識の一大転換だ。

 長澤氏は社長に就任した19年秋ごろから、「ESG経営をグループ全員に浸透させよう」と積極的に動き始め、21年2月、『NYKグループ ESGストーリー』を作成。

 長澤氏は、『NYKグループESGストーリー』の中で三菱の創業者、岩崎彌太郎が海運業を興して150年という歴史に触れながら、次のように述べる。

「不確実性が高まり、未来が見通しづらい世の中で、持続可能な社会に必要な存在であり続けられるのか。その答えを発見する鍵は、当社グループのどこかに確実に存在しているはずだと信じています。今はまだ見えない価値をESGのモノサシで本気で追求し、磨き上げ、形にする経営努力は、これまでの常識では事業として成り立たないと思われていた領域まで目を凝らしていくことであります」

 社会に選ばれる企業として存続するには、「どう行動すべきか」という長澤氏の全員経営だ。

 今、船舶は重油を使って航行。これから当分、環境にいいエネルギーとしてLNGやLPG(液化プロパンガス)、そしてバイオメタノールなどが考えられる。これらは化石燃料の域内にとどまるが、重油に比べて、CO2排出を3割から4割削減できるとされる。

 さらに一歩進んで、カーボンフリー(CO2排出ゼロ)にするには、アンモニアや水素を「燃料として使っていかなければならない」という問題意識。

「燃料転換は社会から求められている課題。われわれはしっかり答えていく責任がある」と長澤氏もホゾを固める。

本誌主幹・村田博文

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