2021-05-09

アパホテル・元谷芙美子社長が語る”コロナ禍でのホテル黒字経営”

元谷芙美子・アパホテル社長


なぜ軽症者を受け入れたのか?

 ─ アパグループは政府の意向打診を受け、先駆けてコロナの無症状者と軽症者の受入れを表明し、その後の流れをつくったわけですが、その経緯とは。

 元谷 政府の意向打診に対しては即座にお引き受けしたのですが、これはかねてからパンデミックが起こり得ることを予想していたからです。先ほど10年ごとに危機が来ると申し上げましたが、ホテル業にとっての最大のリスクはパンデミック(感染症)であると代表は数年前から言っていました。

 100年前のスペイン風邪のような感染症が世界中で蔓延した場合に、ホテル業界は大打撃を受けるぞという危機感から、社員も全員そういう認識を持って心の準備をしていました。

 コロナの感染が拡大する中で、増え続ける感染者を全ての病院だけで受け入れていては満床になり、本当に重篤な患者を受け入れるベッドが確保できなくなってしまいます。また、医療関係者の方々の負担も大きくなる。医療機関が活発に動けるようにするためにもホテル業界のリーディング・カンパニーである我々が最初に手を挙げようと。

 昨年4月2日の夜に政府筋の方から電話が入り、代表は即断即決で受け入れましょうと回答し、私も賛成でした。社員も先ほど申し上げたように、心構えができていましたから、誰一人驚くことはなく、いよいよ来たぞと。そして、最初に「アパホテル&リゾート〈横浜ベイタワー〉」を1棟丸ごとお貸ししました。

 ─ 日本で一番客室が多く、新しいホテルでしたね。

 元谷 はい。日本で最大級となる2311室で、開業して6カ月のホテルでした。ただ、周辺の住民の方々からは最初は反対の声も上がりました。「空気感染するのではないか」と不安の声もいただきました。そこで、自治体側に資料を作成していただき、一定の距離を保てば感染の恐れがないことや患者さんの送迎も車で行うので、接触の心配はないということを周知しました。

 ─ 従業員の安全に対する不安にはどう応えたのですか。

 元谷 もちろん従業員が感染してはいけませんから、専門家によるゾーニングや感染対策を行った上で、そのホテルで働いている従業員がそのまま対応するのではなく、希望者を募りました。すると、私の思いの5~6倍の従業員が申し出てくれたのです。これが本当に嬉しくて、少し手当も出して「頑張ってね」と励ましました。

 その後も東京都からの要請を受けて「アパホテル&リゾート〈両国駅タワー〉」も新築オープン前に1棟丸ごとお貸ししました。こちらも1111室と大きなものなのですが、こちらでも周辺の方々からは不安の声が出てきました。そこでホテルの建設を担当した一級建築士が直接出向いて説明するなど、当社としても様々な手を尽くしました。

 すると、その甲斐もあって東京都に引き渡す日には「コロナ患者さんが早く回復するように」と町内会の方々が折った3000羽もの千羽鶴を持ってきてくださったのです。ホテルで働く従業員の士気も上がって私も胸がいっぱいになりましたね。


東京都からの要請を受けて新型コロナウイルス無症状者と軽症者を受け入れた「アパホテル&リゾート〈両国駅タワー〉」

 ─ 患者さんにとっても新しいホテルに泊まれると。

 元谷 そうです。治った方々からは「横浜の綺麗な夜景が見られました」「隅田川を見て心が和みました」といったお手紙やメールが届きました。そして「ホテルの従業員から優しく元気に声をかけていただいた」と。

 また、医療関係者の方々にとっても、1カ所のホテルでたくさんの患者さんを診ることができるので、お医者さんも看護師さんも効率的に動くことができたと思います。そして従業員にとってもアパで働いて良かったと胸を張ることができます。

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