2021-05-15

日本の“失われた30年”を脱却するには? 答える人 冨山和彦・日本共創プラットフォーム社長(その2)

冨山和彦氏

強烈な新陳代謝が求められるようになった



 ―― コロナ禍で在宅勤務が普及し、個人の生き方・働き方が大きく変わるきっかけになっています。アフターコロナを占うにあたって、雇用面で日本企業に求められることは何ですか。

 冨山 もともと日本の場合、会社や組織の形というのが、強固なアナログ大量生産型で、終身雇用・年功序列型の組織になっていて、それが昭和の日本経済の成功モデルになった。未だにそういう成功体験に依存する企業が多くて、そこから脱却するのに、ものすごい時間がかかっているわけですよね。

やはり、どんな時代であっても、雇用を守ることはとても大事なことであり、米トランプ前大統領でも雇用は大事だと言い続けてきたわけです。だから、わたしはそれなら、いっそのこと、すごい思いをして脱却するのであれば、別の方法を考えてもいいと思うんですよ。

―― 別の方法というと?

 冨山 問題は雇用の守り方として、戦後の日本は、個々の会社がある種の法人共助のような形で、法人が一人の人生を保障しますという仕組みをとってきた。これが少なくとも、大量生産・大量販売で右肩上がりの時代にあっては、大企業であろうが、下請けであろうが最適な形だと思われてきた。

 ところが、デジタル空間・サイバー空間というものが登場してきた今、起こっているのは破壊的イノベーション。強烈な新陳代謝が求められるようになっているわけですね。

 もちろん、ずっと古い仕組みでやってきた会社が、ゲームが変わったので野球選手からサッカー選手に代われと言ってスムーズにいく会社も中にはあるのかもしれませんが、普通は無理ですよね。ポジションや打順が固定され、監督の意向通りに動くことが求められた野球選手が、サッカーの世界に転身し、攻守が次々に入れ替わり、瞬間、瞬間の判断が求められるような世界で通用する可能性は低い。

 ―― いくら選手の運動神経が良くても、現実には対応できませんね。

 冨山 そうなんです。だったら、適応できない会社や選手は交代しなければならない。ところが、個別の企業が法人共助を担った時、それが最後の砦ですという構造を守ろうとすると、新陳代謝ができなくなってしまう。それがひいては産業全体の新陳代謝を遅らせることになりかねない。それが今の日本が陥っている姿です。

 今回のコロナも、リーマンショックの時も同じですが、日本は経済危機が訪れると、特別な法律をつくったりして、ものすごい勢いで会社を守ろうとします。これは個々人を救うセーフティネットを法人に依存しているものだから、法人が潰れると、バタバタと社会全体が潰れることになりかねない。

 だから、法人を助けようとして、モラトリアム法(リーマンショック後、民主党政権が中小企業の借金返済を猶予するよう銀行に求めた中小企業金融円滑化法)のような法律ができるんです。

 とにかく会社が潰れないようにというのは聞こえはいいですが、要するに、これは既存の産業構造、社会構造が固定化することを意味します。その結果、産業構造を変える、ビジネスモデルを変えるという勢いで若いベンチャーが出てきたとしても、既存の勢力が抜けないと新陳代謝は起こらない。こういうせめぎ合いをずっとやってきたのが、失われた30年です。


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