2021-06-03

ヒューリックが進める「木材活用戦略」 東京・銀座に日本初の12階建て木造ビル

ヒューリックが開発している木造ビルの完成予想図(CG:隈研吾建築都市設計事務所)

木材使用によるコスト増をどう吸収するか?


「銀座は日本を代表する商業地であり、ヒューリックの重点地域としてイメージを表す場所でもある。この場所で第1号案件をやろうというこだわりがあった。やるからには国内初ということも意識して計画を進めてきた」と話すのはヒューリックプロパティソリューション副社長の浦谷健史氏。

 不動産デベロッパーのヒューリックが、東京・銀座で日本初となる「耐火木造12階建て」の商業ビルの開発を進めている。2021年
11月竣工予定で、場所は銀座8丁目の銀座中央通りに面した一角。近くには「銀座天國」や「博品館」が立地。

 この開発用地は最初から、商業施設とすべく取得したという。現時点では同社が手掛ける都市型中規模商業施設シリーズ「HULIC &New(アンニュー)」となる予定。

 ヒューリックが木造建築への取り組みについて検討を始めたのは18年のこと。環境問題を意識したのはもちろん、当時、経済同友会で林業育成を通じた地方創生についての議論が進んでいたことも受け、「都心で木材を使うことには意義がある」(浦谷氏)という考えに至った。

 木材は、鉄材やコンクリートと比較して、建設段階でのCO₂発生が非常に少ない。さらに木は二酸化炭素を吸って酸素を吐き出す光合成で成長するだけにCO₂の「固定装置」としての役割も期待される。2つの意味でCO₂削減に貢献できる素材だということ。

 ファサード(外観)デザインは隈研吾建築都市設計事務所が担当。隈研吾氏は国立競技場を始め、要所に木材を使用した「和」を生かしたデザインで知られる。今回、隈氏がこのビルで打ち出したコンセプトが「銀座に森を出現させる」。「隈さんは今、国内で最も信頼できる建築家の1人。耐久性を含め、木材についても詳しい」(浦谷氏)

 現在、リーシングの最中だが、ヒューリックにとってエポックな建物であると同時に、テナントにとっても、これだけの規模の木造ビルに入居するのは初めての経験。「断熱性の良さや調湿作用、リラクゼーション効果など、昔からの木造住宅のような居心地の良さは、テナントさんに対してもアピールできる」

 また、商業ビルではスケルトン状態で貸し、テナント側で全て内装工事を行うのが一般的だが、今回の木造ビルでは柱や梁、天井に木材が使用されているため、店舗デザインにその良さが生かせることに加え、木がデザインに組み込まれている分、内装コストを抑えることができる。

 ただ、現状では木材を使用すると、どうしてもコスト高になる。今回の銀座でも、同じ規模のビルを建設する際に鉄骨造とした場合と比べて、20~25%はコストが上がってしまうという。

 そこで今回は国土交通省の「サステナブル建築物等先導事業」による支援と、多摩産材を使用していることから東京都からの支援も受けて、コストアップ影響を緩和している。

 しかし、「補助金、助成金は一時的なカンフル剤」(浦谷氏)という認識の下、これなしで成り立つ仕組みづくりを模索。

 例えば、ヒューリックには「100%木造」といったこだわりはなく、目指すのは「合理的なハイブリッド構造」。今回も木材を主としながら鉄骨造も組み入れている。「木材使用促進の観点で言っても、長く合理的に使用していくためにはハイブリッド構造で、それぞれの素材を適材適所で使い、経済性を追求していくことが必要」と浦谷氏。

「国内初」ならではの難しさもあった。施工を担当している竹中工務店は素材開発も含め、木材活用に積極的なゼネコンだが、これだけの規模の木造ビルは初めて。そこで自社施設に原寸大の模型を建ててチェックするなど試行錯誤している。

住宅需要急増で木材価格が高騰


 今の日本で使用されている木材の多くは戦後に植林したもの。当時は鉄やコンクリートが調達できず、公共、民間ともに木造建築がほとんどだった。その後、災害対応の観点などから徐々に木材離れが進み、鉄骨造、RC造が主流になっていった。そして今、世界的な環境意識の高まりから、再び木材が注目されているのだ。「この流れが一時的なものであってはならないと思う。今後50年、100年という長期の視点で木と付き合っていく必要がある」と浦谷氏。

 前述の多摩材の他、今回使用している杉材は福島県白河市産が多い。そこで白河の森林組合と連携し、使用した分、ヒューリックの社員が現地で植林するという活動も同時に行っている。

 だが、足元で木材も市場性を帯びた商品であることを浮き彫りにする問題も起きている。それが「ウッドショック」。コロナ禍で在宅勤務が増えているが米国や中国で、その影響で住宅着工やリフォームが増加。木材需要が増大したことで価格が高騰、米国では1年前と比べて6倍にまでなっている。

 日本の木材自給率は3割程度で、ほとんどを輸入に頼るだけに、現状は思うように木材を調達できていない他、国産材の価格も上がってきている。その意味で、いま一度国産材の活用、国内林業の見直しを長期目線で進める必要性は増している。

 ヒューリックは商業ビルに続いて、現在は老人ホームで木材を活用すべく検討を進めている。

 加えて今、三井不動産、三菱地所、住友林業、野村不動産なども徐々に木材を使った開発を進めようとしている。こうした競い合いで、長期的な視点で国産材や国内林業の見直しが進むことも期待される。

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