2021-06-11

2050年のカーボンニュートラル実現なるか? 次世代エネルギーの確保に向け、問われる日本の覚悟

環境対策とエネルギー確保の両立をどう図っていくか



IHIが脱炭素に向けて「小型原子炉」事業に参入



「原子力発電所は廃炉も含めて、誰かがやらなければならない事業」と話すのは、IHI関係者。

 IHI(井手博社長)は「小型モジュール原子炉」を開発している米企業・ニュースケール・パワーに出資し、小型原子炉事業に参入することを決めた。同社にはエンジニアリング大手の日揮ホールディングスも出資している。

 IHIは今、2050年の温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」も睨んだ「カーボンソリューション」を成長事業の一つに掲げる。日本では2011年の東京電力福島第1原発の事故で原発の活用は停滞しているが、世界ではCO2削減に向けて原発のさらなる活用が進む。中国、ロシア、インドが新設を進めている他、米国でも約30年ぶりの新設原発が今年11月にも1基、運転開始が見込まれている。

 米ゼネラル・エレクトリックや英ロールス・ロイスなどの大手企業が小型原子炉の開発に乗り出しているが、米国原子力規制委員会(NRC)の型式認定を終えているのは、世界でニュースケールのみ。

 この小型原子炉はどのように安全性を確保しているのか。モジュール1基あたりの出力は8万㌔㍗程度とし、それを12基並べて運転する。従来の軽水炉が外から水を注水する装置が設置されていたのに対し、最初から格納容器を水の中に入れて稼働させる上、出力が小さいので非常時に電源が失われても冷却させられるとする。

 IHIは1950年代から原発の主要機器を扱ってきており、特に格納容器や圧力容器に強い。今回も安全で精度の高い容器の供給を目指す。

 日本は50年のカーボンニュートラル実現に向けて走り出し、4月には菅義偉首相が30年度に温室効果ガスを13年度比で46%削減する目標を表明した。

 従来目標は26%減で、総発電量の20~22%は原子力で賄う計画だった。ただ、東日本大震災以降、再稼働は9基にとどまる。30年度に原発比率を20~22%にするには、理論上30基程度の原発の再稼働が必要。それだけに「安定供給を考えたら原発の再稼働は避けて通れない」(電力業界関係者)との声も。

欧州などと比べて平地が少ない日本では太陽光パネルを増設できる土地は限られ、政府が切り札と位置付ける洋上風力は適地を選定する手続きなどに数年を要する見通しで、30年時点で稼働するのはごく一部にとどまりそうな状況。

また、“究極のクリーンエネルギー”と期待される水素は、まだ製造方法や運搬方法が確立されておらず、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの比率を増やしても、2050年の脱炭素社会の実現には、原子力無くしてその達成は難しい。

 これまで政府は原子力について、国民の反発を恐れるあまり踏み込んだ議論を避けてきた。無資源国・日本にあって、再エネを増やすことは当然だが、電力供給の“つなぎ”として原子力や火力が必要なのも事実。いずれにせよ、政府の覚悟が問われている。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事