2021-06-15

甘利明・自民党税制調査会長「経営者は『経済安全保障』を意識しないと、突然危機を迎える場面もでてきます」

甘利明・自民党税制調査会長

コロナ危機に加えて、いま産業界に重くのしかかるのが「経済安全保障」というテーマ。具体的には米中対立の中で、価値観や経済運営の制度が違う中国とどう対峙していくのかという課題。対立の根底に、自由、民主主義、法の支配といった価値観の違いがあり、日本は米国や欧州と歩調を一にする。中国は日本にとって最大の貿易相手国。米国にとっても同じことである。そういう中で日本のかじ取りをどうするか──

突然サプライチェーンから外される危険性も


 ── 米中対立が続き、経済安全保障という観点が重要視されるようになりました。日本の企業経営者はどういう認識を持つべきですか。

 甘利 日本の経済界には、米国と中国、どちらと組めば良いのか、あるいは両国とうまく組んでいきたいといった議論がありますが、基本的に、日本は価値観、考え方が違う国と全面的に組むことはできないと考えます。

 ── 基本的な価値観の内容はどういうものですか。

 甘利 自由、民主主義、人権の尊重、法の支配、それからプライバシーを尊重するという考え方です。

 ── 価値観の異なる米中両国とは同じように付き合えないということですね。

 甘利 米中両国を相手にもうけたいという考えでいると、両国からデカップリング(分離)される危険性があります。両国からうまくやろうという安易な考え方でアプローチすると、(取引の)両方を失う危険性もあるということを、まず経営者はしっかり認識するべきです。

 企業では、経済安全保障担当の役員を置く必要があると思います。そうしないと、突然サプライチェーン(取引網)から外されて、いきなり倒産するという危険性があります。そこを気を付けてくださいということです。

 それから、米国側、自由主義陣営側の担当者と、中国の担当者とは、明確なファイアウォールを設ける必要があるでしょう。そしてそのことを米国に分かるように示した方が良いと思います。

 もう一点、中国に進出するということは、企業秘密、知財(知的財産)をすべて盗まれるという前提でやらないと、得るものより失うものの方が大きくなる危険性があります。過去の歴史がそれを物語っています。

 ── 取引先も企業秘密が守られるかという点に関心が高いですね。

甘利 中国とサプライチェーンを組む場合、秘密を保持する体制、ファイアウォールを構築していることを自由主義陣営に示さないと、疑念を持たれかねません。

 日本の企業と一緒に仕事をしていると、われわれのノウハウまで日本の会社を通じて中国に漏れるというリスクを持たれて、商売は成り立ちません。

 ── 日本の企業には、その認識が希薄だと。

 甘利 物理的にも、システム的にも、担当人材的にも、きちんとファイアウォールが確立されていないと、全部失いかねないということを認識してもらいたいです。

 例えば米国の企業が日本の企業をサプライチェーンに入れるとしたら、その企業が、どれくらい経済安全保障上の意識を持ち措置をしているかということを綿密に調べます。疑念があったらお引き取り願いますということになりかねません。

 経済安全保障上のリスクというのは、商売が傾いて状況が悪化するのではなくて、絶好調から突然倒産に陥るリスクがあるということです。

法の支配は通用しない


 ── 中国は日米両国にとって最大の貿易相手国ですが、貿易面にも影響がでますね。

 甘利 影響は貿易だけにとどまりません。たとえば携帯電話を中国で製造していたら、その場のノウハウは百%中国に筒抜けになるという覚悟が必要です。

 中国には国家情報法があり、合弁企業の関係者が持っているノウハウは、国家から要請があったらすべて出さないと関係者は収監されます。

 だから自分たちは契約で守られているとか、システムで守られているとかいっても、相手の中国側の担当者はすべてスパイだというくらいの前提で行動しないといけないのです。中国側の担当者がどんなにいい人でも、それは関係ないことです。法律に基づいて共産党政府から情報提供を求められたら、それに応じなければ国家に対する反逆として有罪になるんだということですよ。

 ── 私たち自由主義国の論理は通用しないのだと。

 甘利 はい。中国には自由主義陣営でいう法の支配というのはないわけですから。本来、法の支配は何かというと、法律は政府も縛るということです。

 政府を縛る法律というものが実態上中国にはないと言っても過言ではないでしょう。法律、憲法の上に共産党があるわけです。共産党は(中国共産党中央政治局)常務委員会で次からこういうことを可能にすると決めたら、事実上そのまま法律になります。

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