2021-06-21

【コロナ問題から環境・成長戦略まで】経済同友会・ 櫻田謙悟の新資本主義論 「世界最先端モデルを示せるのは日本の企業人」

櫻田謙悟・経済同友会代表幹事




コロナ危機で出来ること

 一方、コロナ危機は多くの気付きを与えてくれた面もある。

「ええ、良い事も起きている。典型的な例がリモートワークで、場所を問わない働き方を促す意味でも大事だと思っています。今まで出来ない、出来ないとやってこなかった。それが政府にも言われて、半分強制もされて、出勤率もいったん3割位まで下がりましたね。つまりリモートワーク率が7割位に上がった。出来ない、出来ないと言った所
が実行した。やれば出来るんだと感じた人がかなりいるということです」

 櫻田氏はメガ損保・損保ジャパンを傘下に持つSOMPOホールディングスの社長でもある。損保会社は個人情報を扱う企業。個人情報の取り扱いには神経を使わざるを得ない。

 従来、会社で扱うパソコンは家へ持って帰ってはいけないルールだった。それではリモートワークが出来ないというので、〝シンクライアント〟方式でメインフレームにはアクセスできないやり方を採用。

 それで顧客の個人情報漏洩を防ぐことになっても、今度は社員がフルの仕事が出来ないという矛盾が生まれる。

 しかし、コロナ危機を迎えて、2カ月経たないうちに、その矛盾を解決するシステムを構築。「つまり、かなりの部分が自宅でパソコンを使って業務を仕上げることが出来る。そういう仕組みを作れたんです。100%ではないが、保険金支払いの簡易事業で個人情報についてそこまでディープなものが入らなくて出来るものは、ほとんどそれで済ませられるようになった」

 平時なら出来ないと思われたことが、非常時になると、何とか解決策を見出そうと懸命に努力する。平時とは異なる発想も生まれて非常時対応が出来るということ。潜在能力を引き出せるのも非常時対応の教訓だ。

 ポストコロナを見通して、櫻田氏は「コロナ前の時代にいつかは戻るとは絶対ならない。それは覚悟を決めようよと。これは形状記憶合金型と言っているんですが、昔にいつか戻るというノスタルジックなものなどない」と強調する。

 もし、戻るものがあるとすれば、それは、「わざわざそうすることが意味あるものは残っていく」と次のように続ける。

「例えばフェイス・ツウ・フェイスでないとミーティングの意思が伝わらないというケースはあると思います。それはやったらいい。月1回なのかもしれないし、週1回かもしれない。でも、毎日はあり得ない」

 そして、あり得ない話でいうと、「わざわざ満員電車に乗りたい人は絶対いませんよね。これも無くなっていく」という。

 コロナ後にも生き残る働き方になるかどうかを決めるキーワードは『わざわざ』である。

日本の良さと強さを生かす成長戦略を!

 こうした時代に企業人はどう振る舞うべきかという命題について、「成長は何のためかをよく考えなければいけない」と櫻田氏は次のように語る。
「すでに日本は世界第3位の経済規模であるということだけではなく、生活水準も高い。パー・キャピタル(1人当たりGDP=国内総生産)という意味ではどんどん抜かれているけれども、それでも例えば日本の持っているソフトパワー、食事、風景、アニメーションといろいろな意味で日本は世界から見て羨ましく思われています」

 ESG、SDGsが言われ、いわゆるグリーンイノベーションが進む中、日本の立ち位置をどう図ればいいのか?

「太陽電池は中国が世界のシェア7割を押さえてしまっている。ここを一生懸命やっても仕様がないだろうと。風力発電にしても、部品は輸入材だと思うんです。いずれにしても、日本の産業力も、すごく強いものと、そうじゃないものがあるので、それをメリハリをつけてやっていく。限られた経営資源、資本も含めて技術は、ここで勝つんだというものに絞っていく。そちらに早く経営資源を振り向けていくべきだと。これが僕は成長戦略だと思っています」

次世代を巻き込んでの議論 未来選択会議を設置

 経済同友会は1945年(昭和20年)の敗戦を受けて、日本の復興、成長を期し、企業人が個人の資格で寄り集って出来た経済団体。『日本はいま焦土に等しい荒廃の中から立ち上がろうとしている』と設立趣意書は謳い、危機の中で立ち上がった経済団体だ。

 いまはコロナ危機という混沌の中にある。
「わたしは経済同友会を経済団体と定義する必要がないと思っています。設立趣意書を見ると、敗戦の直後、焦土と化した荒廃した日本をいかに立ち上げるかということで、若い経営者が集まって知恵を絞ろうと。今回も同じで、コロナ危機にあって、焦土と化したというか、山ほど課題を抱えていることが分かった。経済人というか、経済人でもある国民として、あるいは経営者として、それに対する解決策をつくるための国民議論の場をつくろうと。そういうことで昨年の9月、未来選択会議を設立しました」

 未来選択会議──。『次世代』と『多様性』をキーワードに社会のさまざまなステークホルダー(利害関係者)が集って、日本の未来を選択する際の論点を集約し、国民に議論してもらおうという趣旨で開設。

 例えば、2050年にCO₂(二酸化炭素)排出を実質ゼロにするという国家目標を実現するため、新たに2030年時点でそれを2013年度比46%削減という難問を日本は背負う。

 この難問を解くためには、原発の稼働は不可避で、太陽光や風力など再生可能エネルギーが不安定な電源であり、不測の事態が発生したときの調達電源・安定化電源として確保しておくべきという意見が専門家の間にある。一方で、原発だけは何が何でも反対という声も根強い。

 原発問題がタブー視され、議論は停止されたまま来ている。
「賛成、反対の対立軸はしっかり明示するということ。原子力発電を増やすべきか、減らすべきか。賛成、反対でおしまいでなくて、さらに深掘りしていくと。どこで賛成なのか、なぜ反対なのか。反対はさらに言うと、どうすれば賛成になるのか。原理主義的に死んでも賛成にならないという人もいるかもしれない。でも、ここが解決できればいいよという人は、日本の国民に相当いるはずです」

 こうしたストーリーが全然無く、原子力の専門家、官僚からは専門的な言葉が飛び交うが、
消費者団体や国民から見た場合、「よく分からない」となりがち。「どういう課題があり、われわれ国民としても負担せざるを得ないのか、負担したくないものなのか。そのストーリーがないままで議論され、要するに空中戦になる。わたしたち国民のいる地面に降りてきていない」

 2050年時点を現役世代で生きている今の学生など若い世代や幅広い層の参加を促しての未来選択会議の設置である。

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本誌主幹・村田博文

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