2021-06-12

「菅おろし」がやんだ自民党 東京五輪を前に主導権争いの号砲

イラスト:山田紳

政府の新型コロナウイルス対策は世論に支持されていないのに、自民党では幹部がこぞって菅義偉首相の総裁再選を支持し、「菅おろし」の声はぴたりとやんだ。挙党一致で難局に臨むといえば聞こえはいいが、一皮めくると、秋以降をにらんだ主導権争いはすでに始まっている。党内の微妙なパワーバランスの上に成り立つ菅政権は「終わりの始まり」の危うさをはらみつつ、夏の政治決戦となる東京都議選に突入する。

「私は無関係」

 5月17日、自民党本部で開かれた定例記者会見で幹事長の二階俊博から意外な一言が飛び出した。「1億5000万円が支出された当時、私は関係していない」。真意を確認しようとする質問に、二階は「私は関与していないということを言っているわけだ」と繰り返した。

 2019年参院選の広島選挙区(改選数2)で議席独占をもくろんだ自民党は、2人目の公認候補として元法相の河井克行の妻・案里を擁立。克行らが代表を務める政党支部に党本部から1・5億円を投入し、全面支援した。しかし選挙後、大規模買収事件で案里は当選無効になり、4月25日の再選挙で自民党は敗北した。巨額資金と事件との関連は解明されていない。

 19年当時も選挙を仕切る幹事長職にあった二階が「関係していない」と言ったのは、もちろんとぼけたのではない。2月で82歳になったが、ここ一番の切れ味は健在だ。会見に同席した二階側近で幹事長代理の林幹雄はこう続けた。「広島に関しては、実質的には当時の選対委員長が担当していた」

 林がほのめかした相手は元経済再生担当相の甘利明。急に矢面に立たされた甘利は翌日、「党から給付された事実を知らない。1ミリも関わっていない」と苦笑交じりに記者団に語った。

 常識的には二階を飛び越えて甘利が1・5億円を差配することなどあり得ない。二階と林は甘利が否定するのを織り込み済みで、責任のなすり合いを演じてみせたのだ。

 それはなぜか。二階の発言を伝え聞いた閣僚経験者は当然とばかりに解説した。「そりゃ、名前を出せない人が背後にいるでしょう」

 19年参院選で当時の首相・安倍晋三と官房長官の菅は、党広島県連の反発をよそに、案里陣営に肩入れした。会見での二階の発言は「まさか1・5億円問題に知らん顔するつもりではないだろうな」という2人へのブラフだったとみていい。

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